特集

2022.07.13

「村」と「DIY」が保険。モバイルハウスで暮らす青年を支える僻地の「ホーム」

「保険」という言葉に、あなたはどんなイメージを抱いていますか?人生という冒険を歩んでいく上で、リスクを恐れず立ち向かうこと、そして万が一に備えて「保険」をかけることは重要です。各業界のトップランナーがいかにしてリスクと向き合ってきたのかを語る本企画。彼らの自由な発想が、あなたに合った保険との付き合い方を見つける一助になるかもしれません。

「冒険的な人生」とは、一体どんなものでしょう?

それはきっと、ただ無鉄砲に危険を冒すものではないはず。「自分の行きたい道を自分で選び、誰も通ったことがない道を切り拓く」人生こそが、本当の意味で「冒険的」なのではないでしょうか。

しかしその一方で、人生においてはさまざまなリスクが降りかかります。だからこそ人とは異なる道を進む際には、その歩みを支える「備え」も変わってきます。今回、紹介する人物にとって、その備えとは「自分のつくった村」なのだとか。

その人物とは、赤井成彰(ナル)さん。「生活冒険家」を名乗り活動するナルさんは、自作した「動く家=モバイルハウス」で、年間365日寝泊まりする生活を送っています。

以前はモバイルハウスとともに、日本全国を移動しながら生活していたナルさん。2020年からは仲間と「モバイルヴィレッジぼちぼち」(以下、「ぼちぼち」)という名前の村を神奈川県・旧藤野町で作りはじめ、現在も村づくりの真っ最中です。

ナルさんが村づくりに至ったきっかけは、全国をモバイルハウスで旅する生活だったそう。

家ごと移動する、いわば帰る場所のない生活の結果、ナルさんは「ホーム」の重要性に気づいたのだと言います。そして、自らつくった「ぼちぼち」という「ホーム」が、その後の冒険的な人生を支えてくれている、と。

ナルさんの言う「ホーム」とは、一体なんなのでしょうか? そして、なぜ「ホーム」が冒険を支えてくれるのか? 「ぼちぼち」でナルさんに話を聞きました。

話を聞いた人:赤井成彰さん
“幸せな暮らしは創ろう“をテーマに活動する生活冒険家。1989年4月富山県生まれ石川県育ち。様々な暮らしに挑戦する中で、うごく家「モバイルハウス」を自作して住む生活冒険を実施。現在は“HOMEのDIY”をテーマに「モバイルヴィレッジぼちぼち」というコミュニティを運営。

DIYは「生きていける」自信を増してくれた

山あいの冷え込みが厳しい土地のため、2月の取材当時は雪化粧に覆われていた

神奈川県相模原市、旧藤野町。都内から車を1時間半ほど走らせると、小屋やテントが並ぶ山あいの広場に到着します。ここが、ナルさんの作った「モバイルヴィレッジぼちぼち」。ひときわ目を引く大きなゲルの中で、取材がはじまります。

焚き火スペースとキッチンが内部にしつらえられている

――かなり大きなティピですが、手作りですか?

仲間と一緒にDIYしました。メインの材料は近くの山から切った竹や廃材で、買ったのは防火布くらい。だから材料費は数万円ですよ。ゲル以外の小屋も、全部自分たちでDIYしています。

ここは僕と同じような生活をしている仲間が集まる、ゆるい村みたいな場所なんです。寝泊まりはそれぞれのモバイルハウス。固定のメンバーは数人いますけど、みんな入れ替わり立ち替わり滞在していて、僕もここを拠点に他の土地とも行き来してます。

――ナルさんは、元々モバイルハウスで日本を旅していたんですよね。

そうですね。「動く家で生活すると何が起きるのか?」をテーマに、2019年から1年間かけて日本各地を回っていました。

「家が動く」って、めちゃくちゃ自由だし楽しいんですよ。行きたいところへ行って、車を停めた場所が家になる。モバイルハウスもDIYしたんですが、自分にとって一番居心地のいい空間になっているので、「この宿のベッド、寝づらいな……」なんてストレスもありません。いつでも、自分にとって最高な空間で生活できるんです。

――自分にとって最高な空間をDIYしたのが、ナルさんのモバイルハウスなんですね。

「ぼちぼち」も同じです。自分の好きな世界観を、自分で作れるのがDIYの魅力なんです。それに、DIYをしてるとすごく自信が湧くんですよ。

最初にモバイルハウスをDIYしたとき、ものすごく手ごたえがあったんです。超簡単なつくりの小屋なんですけど、家は家。どこへ行ってもこのくらいの家をつくれるんだ。家ができるなら、机だって椅子だって皿だって、必要なものはなんだって自分でつくれるんじゃないか?と思ったんですよね。

――誰か人の手を借りなくても、ほしいものは自分でつくることができる。

そうそう、だから「どんな場所でも、自分は生きていけるな」って自信が湧いたんですよ。どこか壊れても、自分で直せばいい。今の時代、だいたいYouTubeを見ればなんとかなりますから。この間も、Youtubeを見ながら鹿を解体したりして。

この「ぼちぼち」は田舎にあるので、足りないものは自分たちでつくるしかないんです。畑をやったり、近くの猟師さんに獲物を分けてもらって捌いて食べたり、自分たちでゲルやトイレをつくったり……そうやって、ここで自給自足らしき生活をするようになって、なおさら「生きていける」自信は増しましたね。

ただ、「自分の力だけで何でもできる!」という100%自己完結した暮らしに、僕はあまり魅力を感じられなくて。だからこそ、この「ぼちぼち」をつくったんです。

「ハウス」をつくって分かった「ホーム」の大切さ

――完全に自己完結した暮らしに、魅力を感じられなかった。詳しく聞きたいです。

モバイルハウスは衣食住を自分で全部完結しようと思うと、できちゃうんです。でも、そうすると人に頼らなくてもよくなって、孤立する

実際、モバイルハウスで全国を旅しながら色んな人に会う生活をしてると、だんだん自分がサーカスみたいに思えてきたんですよ。相手の日常に、僕という非日常がやって来る。そこでは盛り上がるんですけど、数日したら去っていき、相手は日常に戻る……。それって、あくまで「イベント」なんですよね。

僕はその状態を「寂しい」と感じました。だから、もっと人と深く関われる暮らしが自分にとって幸せだと感じて、「ぼちぼち」をつくったんです。

――モバイルハウスをDIYしてナルさんが得たのは、「人に頼らなくても生活できる」自信ですよね。でも、その結果、「人に頼らず生きる寂しさ」にも気がついたのはおもしろいですね。

そうですね。だから、「ぼちぼち」は僕にとって「ホーム」だったのかもしれません。

英語の「ハウス」と「ホーム」はどちらも「家」って意味ですけど、微妙にニュアンスが違っていて。「ハウス」は「家そのもの」だけど、「ホーム」には「安心できる場」って意味もあるらしいんですよ。頼れる仲間がいて、帰って来られる「ぼちぼち」は、まさに僕にとっての「ホーム」だなと。

――単に寝泊まりする場所ではなく、もっと精神的な安心をもたらしてくれる場所が「ホーム」ということですよね。そして、ナルさんにとって必要なのは「ホーム」のほうだった。

「ぼちぼち」を作る際の動機としては、好きなだけモバイルハウスを停めておける場所が欲しかった、というのもあったんです。日本で「家が動く暮らし」ってマイノリティなので、どこでも停められるわけではない。人の目も気になるし、僕にとって数日〜数週間おきに移動する暮らしはしんどくて。ただ、作ってみた結果、「ぼちぼち」は単なる場所じゃなく、まさに「ホーム」として、精神的な支えになってくれましたね。

そういう意味では、「ぼちぼち」は僕にとっての「保険」みたいなものなのかもなあ

コミュニティで生まれる「互助」

「ぼちぼち」には、個性豊かなメンバーが入れ替わりで滞在する。この日いたのは、カービーこと星野諭さん。各地を訪れ、車に積んだ木材などで遊具をその場につくりあげる「移動式あそび場」というユニークな活動を行なっている

――「ぼちぼち」も保険とは、どういう意味でしょう?

いわゆる保険商品ではなくて、もっと本質的な意味での保険ですね。「ぼちぼち」という安心して帰れる場所があるからこそ、旅の多い生活も続けられると思うんです。

――根なし草ではなく、定期的に帰って、仲間のいるホームがあるから安心して旅を続けられる。何かあった時の支えとなる場所という意味では、たしかに保険っぽいですね。

それに、もっと大きな機能もあって。たとえば最近、「ぼちぼち」で電気が使えるようになったんです。ソーラーパネルで発電したい、でもやり方わかんないな……というときに、「ぼちぼち」の仲間から電気の神が現れるんですよ。「配線わかりますよ!」みたいな。

「ぼちぼち」に設置されたソーラーパネル

さっき「YouTubeで検索すれば大体解決する」と言いましたけど、知ってる人に直接教えてもらえるほうが、ずっと短距離ですよね。それに相手は自分の知識が誰かの役に立って、僕は仲間に「ありがとう」と言えて、「こんな心強い仲間がいるんだ」と思える。それってどちらも嬉しいじゃないですか。そんな風に、「ぼちぼち」は自分を助けてくれる仲間が集まる場所にもなっているんです。

――あえて自分でやらずに、人を頼ることも楽しい。それって、まさにナルさんが「ぼちぼち」を作った理由かもしれませんね。

そうですね。頼れる仲間がいるって、めちゃくちゃ心強いです。「ぼちぼち」はFacebookのクローズドグループで運営してるんですけど、今は会員が119人いて、本当に多様な仲間ばかりなんですよ。

写真家とか木こり、大学生、小学校教師、占い師、漫画家……最近になって僧侶が仲間入りしたのと、助産師の資格を取ろうとしてる仲間もいて。そしたらゆりかごから墓場まで仲間内で完結できるな!と楽しみにしてます(笑)。

取材中、男性がお手製の竹かごを持ってやって来た。男性は元々「ゆるゆる」の常連で、「ぼちぼち」も訪れるようになったという。会員以外にも、さまざまな人がやって来る

「ぼちぼち」は会員制で、月1000円を月会費としていただいてるんですよ。僕がモバイルハウス暮らしで月5万円あれば生きられるので、「集めた月会費から、月5万円もらいます。そのぶん、コミュニティを面白くしていきます」と言って、賛同してくれた仲間が会員になっていて。

――会費が、いわばナルさんのベーシックインカムにもなっているんですね。

モバイルハウスで全国を旅してたのは、「自分は最低限、月何円あれば生活できるのか」を実験する意味合いもあったんです。その時わかった最低金額が「月5万円」で。

それだけの収入さえあれば、余剰分のお金でイベントを企画したり、新しい仲間を巻き込んだりみたいな活動ができる。119人もいると、僕の生活費である5万円を差し引いても、まとまった金額が残ります。その分は、「ぼちぼち」みんなのお金として貯金しているんです。

ゲルやトイレの材料費もそこから出してるんですけど、あまりお金をかけずにDIYすることを意識しているので、いまは40~50万円くらい貯まったのかな。このお金は、仲間の夢を応援したり、困ってる仲間を助けたりするために使おう、と話しています。

――日本に古くからある「無尽(※)」みたいだな、と思いました。互助制度的な役割になっているってことですよね。

※一定の口数と給付金額を決めて加入を募り、定期的に掛け金を集め、抽選や入札によって金銭や物品を与える日本の相互補助制度のこと。鎌倉時代にはじまったとされ、現在も日本各地に飲み会(寄り合い)がメインとなった形で残っている

まさに、無尽から着想を得てます。いまは「ぼちぼち夢企画」と題して、会員に夢を3分間でプレゼンしてもらって、もっとも票を集めた人に、ぼちぼち貯金から5万円を渡そうと企画してるんです。そこから、仲間同士の交流がもっと生まれたらいいなと思っていて。

無尽って、現在の保険制度のルーツになってるともいいますよね。だから、「ぼちぼち」がお金の面でも保険的に機能しているってことかもしれません。

自分にとって必要な「保険」は何か、考えてみること

そうそう、「保険」といえば、車両保険はめっちゃ大事です。

――車両保険。やはり移動が多い生活だから……?

天災や事故は、いつどこで降ってくるかわからないので。家ごと移動しまくる生活だからこそ、何かあった時のリスク回避として車両保険はマストですね。人に迷惑をかけて困らせたり悲しませたりするケースを起こしてはいけないし、万が一防ぎきれなかった場合の対処は必要だと思います。

僕はいま、生命保険には入ってないんです。サラリーマンからフリーランスになるタイミングで解約したんですけど、いまは「ぼちぼち」のような「保険的なもの」があるから、なくても大丈夫かなと思っていて。でも、決して保険サービスを否定してるわけではなくて、自分にとって必要なものを自分で選択したいんですよね。

――あくまでナルさん本人にとって必要か?を考えて、取捨選択していると。

「自分で考えて選択すること」は、すごく大事だと思ってます。僕みたいなモバイルハウスの暮らしを見て、「移動する暮らしはできないな。今の暮らしでよかった」と思う人もいるはず。僕は好きでこの生活を選択してるし、「それは無理だな」と思って今の暮らしを選択していれば、それは幸せなことなんだと思うんですよ。

――ナルさんの暮らし方と比較することで、自分の理想の暮らしが見えてくる、ともいえますね。

暮らしの形に「いい/悪い」はなくて、人それぞれの価値観で変わるもの。自分で選んだことだから、自分で責任を持てる。それこそ、人生を楽しむ方法なんじゃないでしょうか? 他人が選んだことをやらされると、しんどい時に逃げたくなっちゃうと思うんですよね。でも、自分が決めたことなら、最後までやり切るエネルギーも湧くはず。

自分で責任を持ってやりきるために、リスクに対する保険は必要。その保険って、実は人それぞれ、色んな形があるんじゃないでしょうか。僕にとって、それが「ぼちぼち」という村だったのかもしれませんね。

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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