著名人・専門家コラム
2022.08.16
経営者が脱税のために使う業者「B勘屋」とは【さんきゅう倉田コラムVol.5】
「これって脱税ですか?」
世の中には税理士さんにそんな質問をする方がいるようです。悪いことだと思ったらやめればいい、適切か不適切か分からなければ聞けばいい。
大丈夫です。脱税しているか否か、脱税を実行している本人はわかっています。だから、「これって脱税かなあ」と思っている程度の方の行為は脱税ではありません。
国税局の査察部が検察に告発して立件するのが脱税で、そのためには一定の不正によって脱漏された金額が必要です。
個人事業者や善良な法人が行った売上の形状漏れや個人的な経費のつけ込みが「脱税」とされることはありません(不正を認定されて重加算税を賦課されることはあるよ)。
そんなちょっとした勘違いに怯える事業者がいる一方、積極的に脱税に向かって走る人間もいます。彼らは事業を興して苦労していた時には何の援助もなかったのに、いざ大きな利益が出て法人税と所得税の偉大さを知ると、狂ったように納税の無意味さを説きます。
「どうしてこんなに税金を納めなければならないんだ。」
「どうして公共サービスからなんの利益も得られないんだ。」
そう思うのは、過去ばかり見て、すでに大成して多くの税を納めている経営者に思いを馳せていないからです。先んじて事業を成功させた経営者は、そのような不満も言わず(こっそり言っているかもしれませんが)、日本を脱出することもなく法人税や経営者個人の所得税、従業員の莫大な源泉所得税を納めておられます。
そんな中、納税を忌避したいと考える新米未熟経営者が用いるのがB勘屋です。
B勘屋ってなあに?
個人事業者や会社が一般的に計上する勘定をA勘定とすると、不正を根拠として計上する勘定がB勘定、そのB勘定の手助けをするのがB勘屋です。
A勘定という表現は会計や簿記の中に登場しないので、会計士さんや税理士さんでもこの表現を用いる機会は多くないと思います。
実際、ぼくの催す税金サークルの中でこの話をした際、会計士さんに一からB勘定の説明を求められたことがあります。
古来、B勘屋は金額の書かれていない領収証を売ってくれる業者として名を馳せていました(ぼくが、国税職員となったときは、ユニコーンや麒麟のような神話の中で生きる存在となっていました)。
時代が進むと、領収証を売るアナログな方法は淘汰され、B勘屋が設立した法人に架空の外注費を計上する方法が一般的になりました。
外注費というのは、個人事業者や会社が計上する経費です。
よその会社に仕事を依頼してお金を払い、自分の経費に計上します。
B勘屋は、なにも仕事はしないけれど、払ったお金の9割程度を個人事業者や会社の経営者の個人口座に戻してくれます。
つまり、会社のお金は1割減ってしまうけれど、その分が経費になって、30%くらいの税金が減るし、9割は社長のポッケに戻ってくるのでとってもいいなあという仕組みです。
もちろん、悪質な不正で、最低の行為です。自分の恋人がやっていたら一目散に別れるし、親がやっていたら戸籍を抜きます。
実際にB勘屋を使っていた社長さんのはなし
先日、ぼくの親しい税理士さんのところに、お召し物がズタボロの社長から相談がありました。
B勘屋を使っていたところ、そのB勘屋に国税局資料調査課の税務調査があって、自分の会社も数ヶ月後に調査を受けるかもしれない、なんとかならないか。
そのような相談でした。
もちろん不正です、そして、不正と分かっていた上でB勘屋にお金を払っていました。調査によって正しい納税額を明らかにされるべきだし、しかるべき罰を受けることが相当だと思います。
話を聞いたろところ、知り合いの社長から会食の最中にB勘屋を紹介され、コンサル料として500万円を支払ったのだそうです。
そのB勘屋が悪質なのはコンサル料として多額の売上があったにもかかわらず、無申告だったことです。
取引記録があるのに無申告であれば、B勘屋を利用した会社のどこかに税務調査があったときにすぐバレてしまいます。
B勘屋の無申告によって調査が進めば、B勘屋を利用した会社に調査が入ることは自明です。顧客に利潤を得られる方法を提案するコンサルタントが、顧客の不利益に繋がる行為を日常的に続けるなんて考えられません。所詮、不正を前提としたくだらない業者といえます。
もちろん、B勘屋の調査によって得られた名簿や預金通帳から、関係各所へ反面調査が行われ、管轄の税務署や国税局に情報提供が行われたと推察されます。
この情報によって、B勘屋を利用した会社への税務調査がおそらく行われるでしょう。
当該法人には、税理士さんを信じずに、税の知識のない知り合い社長の話を鵜呑みにしてB勘屋を利用した報いがあると思います。
コロナ禍で様々な国からの給付金があって、制度を利用した不正受給が行われる中、詐欺師が謳った文句が「犯罪じゃないから」というものでした。そう言われると、そう感じてしまうかもしれませんが、通常の取引において犯罪か否かを疑うことはありません。そう疑うことこそが犯罪の証拠であるといえます。
怪しい取引を持ちかけてくる人間がいれば、速やかに縁を切って、縁を切ることが難しければ専門家に相談をして、距離を取ると良いと思います。
WRITER’S PROFILE
さんきゅう倉田
芸人。ファイナンシャルプランナー。1985年神奈川県生まれ。 大学卒業後、国税専門官試験を受けて東京国税局に入庁。中小法人を対象に法人税や消費税、源泉所得税、印紙税の調査を行ったのち、同局退職。吉本興業の養成所NSCに入学し、芸人となる。