特集

2022.08.17

「俺はやめないよ」。相思相愛の関係がつくり上げた、複業という名の保険。

「保険」という言葉に、あなたはどんなイメージを抱いていますか?
人生という冒険を歩んでいく上で、リスクを恐れず立ち向かうこと、そして万が一に備えて「保険」をかけることは重要です。各業界のトップランナーがいかにしてリスクと向き合ってきたのかを語る本企画。彼らの自由な発想が、あなたに合った保険との付き合い方を見つける一助になるかもしれません。

副業、フリーランス、パラレルワーク…… 新卒で入った会社で終身雇用といった働き方は今や昔のもの。現代では、さまざまな選択肢から働き方を選ぶのが当たり前になりつつあります。

一方で、今でもほとんどの人は一つの会社に自分の労働のリソースを全て捧げる働き方を選んでいます。それはおそらく、多くの人が、これまで当たり前とされてきた働き方の型から外れた際に起こる未知のリスクを感じているからなのかもしれません。

リスクと正面から向き合いつつ、自分らしく働くためにはどうしたら良いのでしょうか? そのヒントを探るべくお話を伺ったのが、ヤフー株式会社の社員であり、漁師団体「フィッシャーマン・ジャパン」設立者でもある長谷川琢也さんです。

長谷川さんは、2011年の東日本大震災をきっかけに、未来の水産業の形を提案する一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げ、これまで勤めてきたヤフーとの複業を始めました。今ではこの2法人をはじめとした5つの団体に所属し、それぞれで複数のプロジェクトに携わっています。

2014年7月に石巻で設立された、『一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン』

「複業」という働き方を選び、さまざまな分野で挑戦の場を広げている長谷川さん。その働き方についてご本人にお話を伺うと、そこには複数の仕事が互いに支え合う保険となる、「おたがいさま」の働き方がありました。

そんな仕事を実現するには、自分がやりたいことと、会社が得意とすること、社会に必要とされること、それぞれを1つの物語のように組み合わせていく、長谷川さんの編集力があります。

物語をつくることで、複業が保険になっているという長谷川さん。一体それはどういうことなのか? 物語はどのように生まれ、複業はどのようにわたしたちを支えてくれるのでしょうか。お話を伺っているうちに、長谷川さんの働き方から保険の原点とも言える考え方が見えてきました。

やりたいこと、できること、必要なことを編集してつくった物語が、自分を支える保険となる。

――長谷川さんは「フィッシャーマン・ジャパン」の役員や、ヤフーが運営する「Yahoo! JAPAN SDGs」の編集長など、さまざまなお顔をお持ちです。今は、どのような働き方をされているんですか?

今は基本的に平日日中はヤフーの仕事をしていて、フィッシャーマン・ジャパンなどの石巻で立ち上げた事業はそれ以外の時間を使って取り組んでいます。

メディアなどにはフィッシャーマン・ジャパンの人間としてよく取り上げていただくので、そのイメージが強いかもしれません。でも、ベースとなっているのは、ヤフーの社員としての仕事なんです。フィッシャーマン・ジャパンの実務的な仕事は、今は石巻の人たちに任せている部分が大きいです。

漁業の担い手を育成する事業『TRITON PROJECT』なども展開。水産業に特化した求人サイトの運営や、海の仕事を学ぶスクールなどを企画している

――確かに、長谷川さんは「石巻にいる人」のイメージがありましたが、仕事のメインはヤフーなんですね。どういった経緯でそのような働き方になったんですか?

とても端的にいえば、「ヤフーという立場にいたから、石巻の仕事が生まれた」とも言えるかもしれません。

元々僕はヤフーの一社員として、専業で働いていました。そんな時に3.11、東日本大震災があった。その日は僕の誕生日でもあって、震災が遠いものとは思えなかった。そこから東北にボランティアとして関わるようになっていったんです。

でも、次第に個人が集まって行うボランティアの力だけだと、できることに限界が見えるようになってきました。それなら、自分が所属しているヤフーの力を借りようと思ったんです。そこから東北の拠点としての石巻事業所を作ることになり、ヤフー石巻復興ベースができました。その石巻復興ベースでの活動と地元の漁師の方の動きが合流するような形で、フィッシャーマン・ジャパンも生まれた、という経緯があるんです。

だから、僕はずっとヤフー社員として石巻に関わってきました。個人的な石巻への思いがありつつ、ヤフーという企業に所属している立場をうまく活用できたから、仕事が有機的に拡大して、フィッシャーマン・ジャパンが設立されたんです。

2014年、一般社団法人「フィッシャーマン・ジャパン」のお披露目式での写真。

ここまでの話だけなら、「大企業のなかにいるから、好きな仕事をリスクなしでできていいね」と思われるかもしれません。その側面も間違いなくあるけど、ただヤフーを利用しているだけじゃなく、本業ともう1つの仕事、お互いが作用しあっているからこそ今の仕事ができていると思っていて。

――仕事が互いに作用するというのは、どういうことでしょう?

具体的にいうと、石巻での仕事を、元々勤めていたヤフーでも認められて、社内で新しい仕事を任せてもらえるようになったんです。

今僕がヤフー社内でメインに取り組んでいるのは、自治体と連携した、カーボンニュートラル促進プロジェクトの立ち上げです。これは僕の石巻での取り組みを社内で評価してもらって「自治体とのコミュニケーションなら長谷川だ」ということで、この仕事を任せてもらえました。

また、ヤフー社内ではYahoo! JAPAN SDGsというメディアの編集長もやっています。このメディアの前身として『Gyoppy! 』という海のメディアがあって。僕が漁師団体を立ち上げて全国の漁師と情報交換をはじめていたことが、数ある環境問題・社会問題のなかでも「ヤフーが海のメディアをやる」ということの理由と後押しになった。

僕の場合こんなふうに、ヤフーやフィッシャーマン・ジャパンそれぞれで取り組んでいる仕事を素材として、それを編集することで、次の仕事が生まれるという流れができているんです。

――ひとりの人が複数の仕事をする上で、そんな風に仕事同士が関連し合うのって理想的なことだと思います。なぜそんな関係ができたんでしょう?

こうした仕事の流れが生まれたのは、東日本大震災でヤフーが現地に入って復興支援を始めたころでした。当時はさまざまな企業が被災地に入っていろんな支援を行なっていましたが、ショッピングやオークションの部署を担当していた僕は、上司から「色々やりたくなるところをぐっと堪えて、自分達にしかできないことをやろう」と言われたんです。

その言葉をもとに、チャリティーオークションや、震災で販路を失ってしまった商品を販売するショッピングサイトを立ち上げました。「自分にしかできない」って、何か行動を起こす時にすごく強い理由になりますよね。行動する大義名分であり、応援してもらいやすい物語になる。

さらにいえば、この場合、ヤフーで働く自分たちにしかできないことが、震災復興という社会にとって必要なことにも合致していた。僕個人にとっても、誕生日に起きた震災に何かを感じられずにはいられない。3月11日に生まれたということが行動を起こす理由になっているわけです。

「やりたいからやります!」だけじゃなくて、自分がやりたいこと、会社が得意としていること、それに社会に必要とされることの間にどんな物語があるのかを編集してはじめて、それぞれの複業が有機的に繋がっていく。

僕は全ては編集だなと思っていて。僕の場合はヤフーの仕事をベースにしながら、石巻での活動や個人の思いを繋いで物語を作れたことで、今みたいな自分にとって理想的な複業の形になっています。

――一つの会社にだけでなく、いろいろなところに活躍の場を広げて行かれる長谷川さんの働き方はとても魅力的です。一方で、そうしたチャレンジングな働き方にリスクはありませんでしたか?

たしかに複数の事業に手を出すと、活動の軸が曖昧になるというリスクもあります。でも僕の場合は、ヤフーの社員であるという一つの大きな軸があって、基本的にはその軸がブレることがないようにしています。会社の中にいることで毎月一定のお給料がもらえるし、様々な福利厚生をはじめとした制度的な保護も受けられますから。

取材などの仕事を通して、自ら海に出る機会も多い

他の事業に関して、関わってくれている人たちの収益は気にするけれど、自分自身の収益性はあまり気にしなくて済む。だからこそ、新たな挑戦もしやすいですよね。それに、先ほども言いましたが、僕がヤフー以外で取り組んでいることで生まれたノウハウや人脈を、ヤフーの事業にも生かすことができる。こうした僕とヤフーの相互で生まれる循環が、お互いにとっての利益となっているわけです。

複数のコミュニティに所属することが保険になる? 複業という働き方から保険の原型が見えてきた。

それに、そもそも複数の職場を持つこと自体が保険になることもあるんです。

――複数の職場を持つことが保険になる……? どういうことですか?

職場をコミュニティというふうに言い換えて考えてみましょう。

複数のコミュニティに所属していると、それぞれの中には魚を獲るのが得意な人、米を作るのが得意な人、家を建てるのが得意な人と、さまざまな得意分野を持った人たちがいますよね。そういう人たちと仲良くなって、お互いに自分の得意分野を活かせるような関係を作っておくと、例えばお金がなくなっちゃって食べるものがなくなった時には魚やお米が家に届くだろうし、家が火事になっちゃってもまた建て直すことができる。それって保険の形そのものですよね。

複業という働き方にも同じことが言えると思っています。ある事業で何か困ったことが起きた時でも、他の事業のリソースを使って補ったり、逆に新しいことを始めようと思った時に、一つの会社に勤めているだけでは得られないような知識や人脈を活かすこともできる。守りも攻めも、同時にできちゃうんです。

――なるほど。制度的な保険に頼らずとも、複数のコミュニティに所属して"お互いさま"の関係を築き上げれば、そこに自然と保険的な役割が生まれて、守りにも攻めにも役立つということですね。

でも、これって昔は当たり前のことだったんじゃないかと思うんです。いわゆる共助と言われるもので、漁村や農村では人生の一大イベントである冠婚葬祭を執り行ったりとか、お祭りをやったりとか、そういう大きな出来事に対応するのは地縁のコミュニティの役割だった。

2019年に開催された「魚を食べながら、海のことを考える」集まりの様子。長谷川さんは全国を渡り歩きながら、数多くの漁師や漁業関係者、水産業に関心を抱く人々と関係性を培ってきた。

そういうコミュニティがあったからこそ、昔の人は安心して生活を送ることができていたと思うんです。今ではそうした営みはだんだんとなくなってきていますが、だからこそ現在の保険サービスが発達してきたというのはあると思います。

――今はコロナもあって、なかなかそういったコミュニティを維持するのも難しくなってきていますよね…… これからの時代、僕たちはどうやって自分たちのコミュニティをつくっていけばいいんでしょうか?

確かに、コロナになってからはリモートワークが急速に普及したこともあって、リアルの場で顔を合わせて話すことはぐんと減りましたよね。僕はこれは結構怖いことだなと思っていて、本当は人と会って話せば、そのついでに野菜をもらったりとかお手伝いをしてあげたりとかができるじゃないですか。それがリモートだと全くできなくなってしまう。もちろん無駄な会議がなくなるとか、そういういい面もあると思うんですけど、やっぱり会って話すのって大事だったなと。

一方で、リモートが普及してきたおかげで、都会の人が地方のコミュニティに関わるチャンスが増えてきているという側面もあります。コロナで県境を超えた移動が難しくなったことで、今まで直接現地に移住しなければ関係を作ることができなかったような地域でも、リモート環境が整ってきています。そういった地域にあるコミュニティとは、都会からわざわざ移住をせずとも、関わることができるようになっている。これは大きなチャンスなんじゃないかと思っています。

「俺はやめないよ」 保険以上の関係性は「愛」があるから生まれる。

――長谷川さんは編集的な考え方を通して、仕事と仕事をつなげることで自身の理想的な働き方をつくることができたんだと思います。そうした生き方の中で、大事にしていることってありますか?

どんな時でもそうですが、「私にとってあなたがいることが保険になるし、あなたにとっても私がいることが保険になっている」、そういった信頼関係を築くことが一番大事です。複業なので、それぞれのコミュニティには半身ずつ関わることにはなるんだけど、それでもどのコミュニティにおいてもちゃんと三方よしの状況を作ること。僕だったら、ヤフーにとっても、フィッシャーマン・ジャパンにとっても、自分にとっても、社会にとってもいいと言える状態を作ることです。

――ヤフーの立場を利用する、ということは確かにやってきたけど、それだけじゃないと。

そう。先ほども言いましたが、複業をしていても絶対に軸はずらさないことが大事だと思います。それは僕の場合、ヤフーを辞めないということです。軸がブレると、不正が起きたり変な力学が働いてしまったりする危険があるじゃないですか。

それぞれの仕事をしっかりやるためにこそ、「俺はヤフーを辞めないよ」って会社の人にもずっと言い続けてる。そうすることでちゃんと会社にいる価値を認めてもらえるようになるし、だからこそ、別の場所に新たな活躍の場を見出すこともできると思うんですよね。

――なるほど、「俺はヤフーを辞めないよ」ですか…… 長谷川さんがそうやって言い続けられるのは何故なんでしょう?

それはやっぱり愛なんだと思いますね。会社には自分が何者でもない時から拾ってもらってずっとお世話になっていますから。やっぱり好きなんですよね。その上で、僕としても愛を会社にもちゃんと返していきたいし、そうした考えを伝えているから、会社にも僕の姿勢を認めてもらっている。まさに相思相愛だからこそ、「やめないよ」って言い続けられるのかなと思っています。

取材・執筆:久保田 貴大
撮影:平井慶祐
編集:Huuuu

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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