「店をつくる」が保険に化けた。編集者・ミネシンゴさんの考える、暮らしをボトムアップさせる保険論

「保険」という言葉に、あなたはどんなイメージを抱いていますか?
人生という冒険を歩んでいく上で、リスクを恐れず立ち向かうこと、そして万が一に備えて「保険」をかけることは重要です。各業界のトップランナーがいかにしてリスクと向き合ってきたのかを語る本企画。彼らの自由な発想が、あなたに合った保険との付き合い方を見つける一助になるかもしれません。

編集者でありながら、経営者として多くの事業を営む『アタシ社』代表のミネシンゴさん。

三浦半島の先端にある、神奈川県三浦市・三崎という港町で、ヘアサロン『花暮美容室』、コーヒーも飲める蔵書室『本と屯』、雑貨店『HAPPENING』、シェアオフィス『BOKO』など、さまざまなジャンルの場所を運営しています。

かつて美容師として働き、美容師のための文藝誌『髪とアタシ』を独自に創刊したミネさん。美容と編集、ローカルとカルチャーといった自分の軸を反映しながら、自分らしい仕事を港町でつくり続けています。

海の見える町で、好きなお店をいくつもやりながら暮らしていく……字面にすれば優雅な生活に聞こえるかもしれません。しかし、その背景にはローカルで事業を成り立たせていくための、ミネさんなりの保険論がありました。

「"何かあったときのための保険"というより、自分達の暮らしをボトムアップさせるための投資がいつの間にか保険になってたんです」

事業を増やせば、その分背負うリスクも多くなるはず。それでも『店をつくるという投資が、いつの間にか保険に化けている』というミネさんの保険論を伺いました。

話を聞いた人:ミネシンゴ

1984年、神奈川生まれ。
夫婦出版社「合同会社アタシ社」代表社員。出版社 アタシ社代表。

美容文藝誌 髪とアタシ発行人/編集長。美容師4年、美容専門出版社で月刊誌の編集2年、HOT PEPPER Beautyの企画営業を経て独立。美容メーカーMILBONオウンドメディア編集長、クリープハイプ「もうすぐ着くから待っててね」「イト」の写真担当。渋谷のラジオにて「渋谷の美容師」MC。三崎の蔵書室「本と屯」店主。花暮美容室、雑貨屋HAPPENING、シェアオフィス「BOKO」を運営。2022年9月に真鶴にて「本と美容室 真鶴店」をオープン予定。現在は神奈川県・三浦市三崎に移住し、編集を軸に、ローカル、美容、場づくりの仕事をしている。

事業スタート時から、"ダブルエンジン方式"でリスクを減らす

インタビューは、アタシ社が運営する蔵書室『本と屯』で行われました。

ーーミネさんの活動はジャンルも多様な上、次々と新しい事業をはじめられている印象があります。いま運営しているものだけで、いくつの事業がありますか?

三崎で活動しているものだと、次のような会社や店があります。

編集と出版の会社『アタシ社』。アタシ社では、美容カルチャー誌『髪とアタシ』や、雑誌『たたみかた』、三浦市の移住冊子『MIURA』、移住情報誌『TURNS』の編集など、数多くの雑誌・書籍を手掛ける。
蔵書室『本と屯』。個人による寄贈本が多く並ぶこの場所は「ただ、無料で本が読める空間」としてつくられていて、基本的に本を買うことはできずアタシ社の本と知人の著者の本のみ購入ができる。コーヒーも提供していて、文字通り町の人が「屯(たむろ)」する場所になっている。
『花暮美容室』は、1組ずつ予約制の美容室。美容師の菅沼さんが一人で運営。時に、ミネさんが施術中のお客さんとおしゃべりすることも。
雑貨屋兼イベントスペース『HAPPENING(ハプニング)』。取材で全国を渡り歩き、多くの人と物に出会うアタシ社メンバーが、おもしろいプロダクトや催しをここに持ち込んでいる。

それから、シェアオフィス『BOKO』や、まだ名前はついていないんですが、倉庫として借りていたスペースで古着屋さんもはじめているんです。

さらに、これから神奈川県にある真鶴という町で、美容室をはじめようとしていますね。

ーー異なる業種の事業をいくつも展開されながら、どれも「やりたい仕事」「興味ある仕事」をつくられている印象です。あたらしい事業をはじめるとき、考えていることはありますか?

1つの事業をはじめる時は必ず、もう1つの事業と掛け合わせて"2つセットではじめる"ことですね。

一般的なリスクヘッジの考え方では「新しくはじめる1つのことが転ばないように、保険をかける」や、「転んでも大丈夫なように、保険をかける」というものが多いと思うんです。

僕はそれよりも、「あんまりリスクがないだろうな」という状態を最初からつくりたいと思っていて。

ーー具体的に、どういうことでしょう?

例えば、僕たちは『本と屯』というお店を営んでいますが、そもそも売上を立てることを目指していない場所なので、そのお店だけでは運営し続けることができない。

ただ、2階にヘアサロン『花暮美容室』を併設していて。美容室の利益率がとても高いから、1階の『本と屯』は利益を追わずにやれるんです。稼げるコンテンツと、稼げないけど文化的で愛おしいコンテンツを組み合わせることで両方やりたいことを実現できる。

ーーつまり、収益は美容室が担保しているから、「『本と屯』で利益がでない」ことがそもそもリスクにならない?

そういうことです。

コーヒーも飲める蔵書室『本と屯』。小学生がくつろぎに来るかと思えば、90代の元マグロ船員の方が古い航海日誌を持ち込んでくれることも。思い思いの過ごし方ができる場所だ。

ーーはじめから、リスクをリスクと思わなくて済むような仕組みをつくっているんですね。じゃあ反対に、『本と屯』をやる意義ってなんでしょう?

自分がやりたいから、町にとって必要だからということもあるんですが、もちろん事業としても意味があって。

美容室って「通りがかりにふらっと入ってくる」なんてことはないじゃないですか。でも、『本と屯』には、世代も住んでいる場所もさまざまな方が入ってきてくれる。

そういう人が何回か本と屯に遊びに来てくれるうちに、「髪もここの2階で切ってみようかな」と思ってくれることがある。利益率の低い蔵書室も、2階の美容室の集客装置になっているんです。

ーー同時にはじめた2つのお店が、お互いの性質を補い合う保険的な仕組みになっているんですね。

そうなんです。この蔵書室と美容室の座組みはまだここ1〜2年で形になったものなんですが、とてもいいなと思っていて。自分のなかで"ダブルエンジン方式"と呼んでます。出版社が営む本屋的空間を作れれば、毎日小さく自社のブックフェアをすることもできますし。

ーー「本」と「美容室」の2つを組み合わせることで「収益をしっかり担保する」というリスクヘッジも、「より多くの人を集客する」という推進力も、どちらも得ている。花暮美容室のモデルっていろんなところに展開できそうですね。

本と美容室のモデルは、とてもいいと思うんですよね。実は、三崎のほかに神奈川県真鶴でも美容室と書店を組み合わせた業態のお店をはじめました。名前もそのまま「本と美容室」。美容師のあたらしい生き方を模索するモデルとして、いろんな地域に広めたいと思っています。

それに、三崎のまちでは、この仕組みを別の事業としても展開していて。

雑貨屋『HAPPENING』。編集者のミネさんが出会ってきたその道のプロにセレクトを依頼し、生活雑貨や調理雑貨、贈り物などが並ぶ。外に大きく開かれた店内は、着席50名のお客さんを収容するイベント会場にも。

あたらしくはじめた雑貨屋『HAPPENING』も、2階がシェアオフィス『BOKO』になっています。シェアオフィスの会員さんが一定数いるので、『HAPPENING』の方の売上がそこまで大きくなくても、心配いらない。

もっとも、『HAPPENING』もおかげさまで盛況で、今年のGWには数十万円の売上がありました。

ーーすごい。これからが楽しみですね。

『HAPPENING』ではイベントもどんどんはじめようと思っていて。映画の鑑賞会や落語会……最近では、シェアオフィスの入居者さんから「3Dプリンターを買ったから、活用して何かワークショップをしましょうよ」なんて言ってもらっていて、どんどんアイデアが出てきています。

ーーいろんなジャンルのイベントが開けそうですね。その分、来てくれるお客さんの層も広がりそうな。

そうなんです。お店をつくればつくるほど、僕たちのお店に来てくれるお客さんの層は増えていくんですよね。それも、歩いていける範囲の同じ商店街エリアのなかにお店をつくっているから、回遊しやすい設計なんです。

各"エンジン"の、無理のない動かし方

ーーお話を聴くと、1つ1つの事業が独立して採算を取るというより、事業全体でお金を循環させてうまく回していくイメージですよね。なかでも柱になっている事業はなんなんでしょう?

やっぱり、出版と編集の会社『アタシ社』の事業ですかね。それから、『花暮美容室』。この2つだけで大体7割くらいの収益を担っていると思います。

ーーミネさんの事業のなかでは『花暮美容室』ってかなり大切な位置付けですよね。収益をしっかりあげる役割もあるし、老若男女さまざまな人が通える業態でもある。欠けちゃいけないピースだからこそ、働く美容師の方の負担が重い……なんてことはありませんか?

むしろ、『花暮美容室』は、朝から晩まで働き詰めの都会の美容室よりずっと働きやすいんじゃないかと思います。

菅沼くんという美容師が1人で美容室を動かしてくれているんですが、彼の給与は歩合制なんです。今は「ひとりでやる」と考えてますから後輩の教育もないですし、自分で働き方をコントロールして休日も決めています。

一般的なサロンは従業員を雇って運営する以上、売上、スタッフへの教育、マネジメントを並行してひたすら追いかけなきゃいけないので、そうしたスタイルとは全く違う。さらに、世の中のいわゆる"ひとりサロン"とも、また違いがあるんです。

ーーどう違うんでしょう?

『花暮美容室』。カット用の椅子の側には広い窓と、ミネさんらが座ってお客さんとコミュニケーションをとるための椅子やソファが。自然と会話が生まれる場所になっている。

世の中にも、ひとりサロンはたくさんあります。ただ、その多くがひとりオーナーかつひとりサロンという形。それだと、オーナー兼美容師が病気になったりして店に立てなくなると、その分収益は減ってしまうわけです。

でも僕たちの場合、菅沼くんが病気になって店を開けない、なんてことがあったら、編集と出版のアタシ社の利益からいくらか給与を渡すこともできる。それこそ、社内保険のような形で。

働き方はフリーランスのようでいて、雇用とフリーランスのちょうど間のような形になっているんじゃないかなって思います。

ーーそう考えると、心理的安全性は大きいですね。

それに、他の企業としての美容室と違うのは「育てる若手がいない」ということ。

個人で一店舗だけを運営している分、家族との時間も過ごしてもらえるし、自己投資の時間に使ったっていいんです。事業が複数の軸を持っていることで、かなり自由度の高い働き方になっているんじゃないかなって思いますね。

「店をつくるという投資」が、保険に化けていた

ーーお店を増やすことで、お店同士が支え合う「保険」になる。とはいえ、お店が増えれば人件費も増えますよね。それもまた、新しいリスクなのでは?

実は、そうでもないんですよ。

美容室をのぞけば、長い時間の接客を必要としないお店は3軒だけなんです。本と屯、HAPPENING、それから名前のついていない古着屋さん。

この3軒に関してはいつもアルバイトの方が1人ずつで回してくれているんですが、誰でもどこでも働けるようにアルバイトのみんなに3軒分の業務内容を覚えてもらっているんです。

ーー珍しいですね!たしかに、それぞれのお店でシフトを組めるくらいの人数のアルバイトを雇うと人件費も膨らんでしまうけれど、複数の店舗を担当できるならそうはならない。もしかしたら、教育の時間も少なくてすむかもしれないですし。

アルバイトの人にとっては、違う業種のお店の裏側を知ることができるんですよね。お店が変わる分、いろんなお客さんにも会えるし。

ーー確かに、いろんな業態の運営方法を知っていることって、働く上でいつか活きてきそう。アルバイトの人たちにとっても、メリットがありますね。

それに、自分が働いているお店が複数あれば、お客さんに他のお店のことも勧めやすい。『本と屯』に来てくれたお客さんに「あっちに古着屋もあるので、よかったら覗いてみてください」なんて会話が自然にできるんです。

ーー働く人にとっても無理のない形だし、お客さんにいろんなお店を渡り歩いてもらうきっかけにもなる。いい循環が生まれていますね。

同じ三崎の町で暮らす俳優やクリエイター、ミネさんらが着なくなった古着を持ち寄って営む古着店。販売利益を元手に、今後は仕入れ活動もしていくそう。「平塚に大きい古着倉庫があるから、そこに行きたくて」

ローカルの町で活動していると特に、「お店を増やす」ことの意味って大きいなって思うんです。端的に言うと、「レバレッジが効きやすくなる」

ーーそれはどういうことですか?

自分達の活動の方向性を決めて、進んで、その効果が明確に出てくるまでは、かなり時間がかかるじゃないですか。

でも、店をたくさん増やしていると、いろんなノウハウが自分に溜まるし、「あの人はこういうことがやりたいんだな」って周りからの理解も進む。「店を増やす」という投資で、町の人たちにも信頼してもらいやすくなってるのかなって。

ーー貯金みたいですね。町の人からの、信頼貯金を得ているみたい。

僕の場合は、『本と屯』『花暮美容室』『HAPPENING』『BOKO』みたいなことをやってきて、町の人から「よくわかんないけど、カルチャー的なお店を増やしてるんだな」と思ってもらえる。そういう人が「名前はまだないけど、古着屋さんなんです」って店をやってたとしても、違和感がないと思うんです。

リスクを避けながらそうやって3つ、4つと活動を増やしてるうちに、町の人にも僕たちのやっていることを理解してもらいやすくなってきた。

ーー「お店を増やすこと=投資のようなもの」という考え方もしっくりきます。自分がやりたいことをやるための、下地づくりのようでもある。

保険と投資って、割と近いですよね。保険=保守的で「マイナスの状態に落ち込んだときに、助けになるもの」って捉えられることが多いけど、投資に関しては「現状のままでもいいけど、ボトムアップするためのもの」ってことじゃないですか。

それは、個人事業主やフリーランスが新しいスキルを身につけるのも同じこと。僕の場合は、「店をつくる」という投資が、結果的に保険に化けてたのかも、って思います。

ーー攻めの保険を通して、やりたいことがやれるようになってきたんですね。

僕は元々は、「かっこいい雑誌をつくって、世に広めるんだ!」って意識が強かったし、そのためにもクライアントワークを多くやってた。でも、僕の本業は編集者で、本をつくること。

もっと優雅に出したい本を出したい時に出せるような原資を作らなきゃな、と思うようになって。自主事業をつくれば、クライアントワークに依存しなくてよくなるんです。

だから、これからもお店はどんどん作っていくと思います。やっているうちに、「三崎の町がこうなっていくと面白いだろうな」って気持ちも芽生えてきましたしね。

取材・編集 Huuuu
撮影 荻原楽太郎

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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WRITER'S PROFILE
Huuuu
Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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