保険の基礎知識
2023.01.31
老齢年金・障害年金・遺族年金|もしもの時に頼れる公的年金制度を知ろう【FP監修】
株式会社FP-MYS 代表取締役 工藤 崇
1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。日本FP協会AFP認定者。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。
もしもの時の経済的リスクに備える手段といえば、貯蓄か保険というイメージがあります。そのため、日本に住む20歳以上の人は誰でも加入を義務付けられている公的年金の加入目的が老後資金だけではなく、万が一に備えるしくみがあると聞いて驚く人もいるかもしれません。
厚生年金や国民年金に加入している人は、所定の条件を満たした際に障害年金や遺族年金を受け取れます。この記事では、老齢年金・障害年金・遺族年金の3つの年金について解説します。
この機会に公的年金についての理解を深めて、万一のときにしっかりと活用できるようにしましょう。
公的年金制度の基礎と老齢年金
公的年金制度は、社会全体で高齢者などの生活を支えるために設けられました。公的年金は大きく分けると、自営業らが加入する国民年金と、会社員・公務員とその家族が加入する厚生年金の2種類です。国民皆年金制度を取っている日本では、20歳〜60歳未満の人は全員、国民年金か厚生年金のどちらかに加入することが義務付けられています。
国民年金・厚生年金とも、
- 老齢年金
- 障害年金
- 遺族年金
の3種類がありますが、その受給要件や支給額は異なります。まずは、公的年金として最初にイメージされるであろう老齢年金について解説します。
老齢年金
老齢年金は退職後の生活を支えることを目的とする年金です。受給開始年齢は原則として65歳ですが、60歳以降の任意のタイミングから受け取る「繰り上げ」、反対に65歳よりあとから受け取り始める「繰り下げ」も可能です。ただし、繰り下げでは年金額が減額、繰り上げでは増額されることに注意しましょう。
老齢年金には2種類あり、国民年金加入者は老齢基礎年金を、厚生年金加入者は老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。
受給要件
老齢年金の受給には、10年(120ヵ月)以上の加入実績が必要です。この期間には、保険料免除期間や合算対象期間も含まれます。将来の年金受給ができなくなってしまうおそれもあるため、何らかの事情で年金保険料の支払いが難しい場合は保険料免除制度を忘れずに利用しましょう。
支給額
老齢基礎年金の受給額は毎年の物価の変動に合わせて見直しされており、令和3年度の受給額は満額で年間780,900円です。これは、20歳〜60歳までの480ヵ月欠かさずに保険料を納付した人の受給額です。納付しなかった期間や保険料が免除されていた期間があると、その期間の長さや免除額に応じて受給額は減額されます。
老齢厚生年金の受給額は厚生年金の加入期間と加入期間中の賞与を含む報酬額によって決められます。そのため、報酬額が高い、または、加入期間が長いほど年金額は多くなります。
自分の受給予定額が知りたい人は、日本年金機構「ねんきんネット」から試算してみましょう。
障害年金
病気やケガなどにより、障害がのこることがあります。障害の程度が重く、厚生労働省が定める障害等級1〜3級に該当すると、障害年金が支給される可能性があります。
受給要件
国民年金加入者は障害基礎年金、厚生年金加入者は障害厚生年金をそれぞれ受給できますが、2つの受給要件は同じではありません
たとえば、障害基礎年金は障害等級1級・2級を持っている人を対象としていますが、障害厚生年金では障害等級1・2級はもちろん、3級でも障害年金を受け取れる可能性があります。
そのほかの要件としては、障害の原因となったケガや病気で初めて診察を受けた日(初診日)に65歳未満であり、その前々月までの1年間に保険料滞納期間がないことなどがあります。
支給額
障害等級や、障害基礎年金か障害厚生年金かの違いにより支給額は異なります。令和3年度の例を見ていきましょう。
障害基礎年金(年間)
- 障害等級1級
97万6,125円(780,900円 × 1.25)
- 障害等級2級
78万900円
さらに障害基礎年金では、18歳になって最初の3月31日を迎えていない子どもや障害等級1級・2級を持つ20歳未満の子どもがいる場合に子どもの人数に応じた一定の金額が加算されます。
障害厚生年金(年間)
- 障害等級1級
老齢厚生年金の報酬比例部分の額 × 1.25
- 障害等級2級
老齢厚生年金の報酬比例部分の額
- 障害等級3級
老齢厚生年金の報酬比例部分の額
(最低保証額として58万5,700円)
上記に加えて、障害等級1級・2級を持つ受給者には配偶者加算があります。
また、障害厚生年金では、3級よりやや軽い程度の障害がのこった場合に障害手当金が支給されます。最低額は117万1,400円で、一回限りの支給です。
遺族年金
国民年金・厚生年金の被保険者が亡くなった際に、のこされた家族に支給されるのが遺族年金です。国民年金加入者には遺族基礎年金、厚生年金では遺族厚生年金が支給されます。
受給要件
続いて、遺族基礎年金と遺族厚生年金のそれぞれの受給要件を見ていきましょう。遺族基礎年金を受け取れるのは、原則として被保険者の子どもです。ここでいう子どもとは、
- 18歳になって最初の3月31日を迎えていない
- 20歳未満で障害等級1級・2級を持っている
のいずれかの条件を満たしている子を指します。
また、子どもと生計を同じくしており、被保険者によって生計を維持されていた配偶者に限って、配偶者も遺族基礎年金を受給できます。
一方、遺族厚生年金では年金を受け取れる遺族に優先順位を設けており、第1順位は子どもと子どものいる配偶者(夫の場合は55歳以上)です。第1順位にあたる人がいない場合は、子どものいない配偶者(夫の場合は55歳以上)や55歳以上の父母、孫、55歳以上の祖父母が受給者となります。なお、子どものいる配偶者が遺族厚生年金を受給している際は、子どもは受給できません。
支給額
遺族年金の支給額は遺族基礎年金と遺族厚生年金によって異なるため、それぞれを詳しく解説します。いずれも令和3年度の金額です。
- 遺族基礎年金(年間)
78万900円 +子どもの数に応じた加算額
- 遺族厚生年金
老齢厚生年金の報酬比例部分の額 × 3/4
遺族年金の増額
遺族基礎年金は原則として子どもがいる人を対象としている制度ですが、子どもがいない配偶者のために寡婦年金と死亡一時金があります。それぞれ支給要件が定められていますが、寡婦年金は60歳〜65歳未満の妻、死亡一時金は遺族に受給資格があるのが特に大きな違いです。2つの制度は選択制で、寡婦年金と死亡一時金はどちらか一方しか受給できません。
また、遺族厚生年金には中高齢寡婦加算という、子どもが成長して遺族年金の受給資格を失うことで、収入が大きく減ってしまうのを防ぐ措置があります。一定の基準を満たした場合に限り、遺族基礎年金の給付停止から65歳になるまで毎年最大58万5,700円を受け取れます(年齢によって支給額が変わります)。
まとめ
国民年金や厚生年金といった公的年金は、老後に備えるためだけのものではありません。もしもの時には障害年金や遺族年金が経済的な助けになってくれるでしょう。
ただし、公的年金から給付を受けるには保険料を毎月収めていることが条件となる場合もあります。支払いが難しい場合は、免除申請ができるか相談することをおすすめします。
公的年金制度を把握しておくことは、保険で備えるべき保障額を考えるのに必要です。保障の重複を防ぎ、保険料の無駄を抑えられるようになります。年金制度を理解するのにこの記事が参考になれば幸いです。
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リアほMAGAZINE編集局
保険選びのリアルな情報やノウハウをシンプルに分かりやすく解説するリアほ編集局です。