悪口合戦の場を、静かに落ち着かせるために|bar bossa 林伸次の「コミュニケーションの保険論」#2

著:林伸次(bar bossa 店主)

コミュニケーションには予期せぬリスクが伴います。人と話していて誤解される、意図が伝わらない、相手を不快にさせてしまう……そうしたリスクに備えるための"コミュニケーションの保険"を手に入れておけば、少しでも気楽に人と関わることができるはず。

お店で巻き起こる、さまざまな状況下でのコミュニケーションを目にしてきた渋谷の『bar bossa』店主・林伸次さんが、バーという空間で見聞きしてきた経験値をもとに、「コミュニケーションの保険」にまつわるエッセイを執筆。バーを舞台とした寓話の数々が、それぞれにとっての「コミュニケーションの保険」を考える一助となれば幸いです。

※文中に個人名の登場するエピソードについて、ご本人に確認の上で執筆を行っています。そのほかのバー内における描写は特定の出来事ではない寓話としてお楽しみください。

あなたはバーのカウンターで座って飲んだりすることはありますか? その経験がないとあまり状況がわからないかも知れないのですが、バーって「お酒を飲むところ」以外に、「大人の社交場」という面があるんですね。

普通、都市生活者である限り、電車の中で隣になった人には話しかけないし、牛丼屋やカフェでも隣に座った人に話しかけたりしないですよね。でも、バーは別でして、カウンターに座って飲んでいて、隣に座った人とマスターを介して話し始めたりして、一緒に仕事を始めるということになったり、恋が始まったりすることもあるというわけです。

でもですね、お客様の会話で時折あるんですが、「どっちが上か下か」っていうのを争うときがあるんですね。例えば、バーなので最初はお酒の話になりがちですが、「ワインお好きなんですか?」と言いながら、「お互い相手がどのくらいワインに詳しいのか」っていうのを探り合うってことがあるんです。「フランスワイン、美味しいですよね。僕、この前の夏、ブルゴーニュの畑を見に行ったことがありますよ」というような「現地にまで行った方が偉い」というので攻める人もいれば、「1993年はヨーロッパはすごく暑かったですよね。93年のブルゴーニュは何か飲まれましたか?」というような「どこまで専門的な情報を知っているか」というので攻める人もいて、カウンターの中から見ている僕としてはハラハラしてしまいます。

あるいは、仕事の話になったりすることもあるんですね。例えば、これがビジネスの場所でしたら、お互いに名刺を交換して、「あ、そうですか。○○商事の部長さんなんですね。なるほど。お若い頃はずっとロンドンで」とかって言ったり、「○○出版で、編集をされているんですね。そうですか。あのベストセラーも担当されているんですね。あの作家さんってどういう方なんですか?」とかって言ったりしますよね。最初に名刺があるから、色んなことがわかりやすいじゃないですか。

でもですね、バーのカウンターではそんなすぐに名刺を出すなんてことは誰もしないんですね。「貿易関係なんです」とか「出版関係なんです」くらいしか言わないんです。そしたらお互いがちょっと探り合うんです。「今は円安ですからねえ」とか「本は最近どうなんですか?」とかって言いながら、相手がどんな大きい仕事をしているのかとか、どのくらいの会社やどのくらいのポジションでいるのかとかを聞いて、どっちが偉いのかっていうのを考えたりするんです。これまた、カウンターの中でいて、ハラハラしてしまいます。

僕としては、「この方、あの有名な本を作ってるんですよ」とか「この方あの有名な商品を扱っている会社の方なんですよ」とかって間に入ったりするのですが、「その本を知らない。その商品を知らない」とかってときもあったりして、なかなか難しかったりします。

あるいは、「同業他社」とか「同じ業界の人」とかってこともあります。ちょっと面白い発見がありまして、一部の業界の人のあいだでは、同業他社の人たちでも紹介し合うとすごく話が盛り上がるんです。「ああ、あの本を作られてるんですね。あの作家さんって原稿が遅いって聞くんですけどどうなんですか?」とか、「あのミュージシャン担当されてるんですか。最近ヒット多いですよね」とかって盛り上がるし、間に知人もたくさん見つかって、「こんどあいつも入れて飲みましょうよ」とかってなるんですね。特にIT業界は似た業種の他社に転職することが多いから、必ず知人がお互いの会社にいるってことが多いようです。

でもですね、重要な情報を多く取り扱う業界の人って、同業他社の人と隣同士になって知り合っても、そんなに会話が盛り上がらないんです。一応、「ああ、そうですか。お互い大変ですね」みたいな雰囲気にはなるのですが、具体的な話にはなりません。このような業界の会社に勤める人にそう言ってみると、「確かにそうかも」と言うのですが、そういう同業他社で盛り上がれるか、盛り上がれないのかっていうのも、バーテンダーとしては把握しておきたい情報です。

さて、特にバーでは、フリーランスで働いている人っていうお客様が多いんですね。全世界どこまで行っても都市のバーではそうかと思うのですが、ライターさん、カメラマンさん、デザイナーさん、編集者さんのような、メディアで働かれている方がたまたま隣り合って、会話が盛り上がるってことがすごく多いんです。それでまあ、「あの会社はギャラがすごく少ないよね」とか、「すごい人使いが荒いよね」とか、色々と言い出すことがあるんです。

そしてもう「酒場の定番」と言いますか、大手広告代理店とか、大手メディアの悪口を言い始めるんです。インターネットでもよく見かけますよね。もう彼らが日本を牛耳ってて陰で動かしている悪の権化みたいな表現。それを、ついつい酒場でもやってしまうんです。

バーテンダーの僕としては、その悪口を一緒になって盛り上がったり、笑ったりしてはいけないという「ルール」があります。

僕がよく使う手は、「あの人たちもすごい大きな仕事をしていると思いますよ。まあ実際、ああいう大きなメディアが紹介するから、今までみんなが知らなかった業界に光が当たって注目されてみんなが潤うってこともありますし、広告っていうのがあるからほぼ無料でコンテンツを楽しめるって面もありますしね」というように、ちょっと言いくるめるみたいなこともするんです。

それでも、まだまだ悪口合戦みたいなことが続くと、「あのー、うち、その会社の人たち、よくいらっしゃるんですよね」って言うと、多くの人たちが「ハッ!」と気づいてくれます。「そうかあ。自分たちがここでこうやって飲んでいるということは、もちろん大手メディアや大手広告代理店の人たちもここで飲んでいる可能性があるわけなんだ」と気づいてくれて、「いつもの自分たちの身内だけの飲み会じゃないんだ、バーは色んな人が来るパブリックな場所なんだ」と気づいてくれるというわけです。

バーって、ただの飲み屋ではなくて、「都市生活者の大人の社交場」という面が大きいと思っています。自分たちだけの言葉やルールが通じる閉じた世界ではなく、誰でも入ってこれる開かれた場所なんです。

ですので、バーテンダーとしての僕の仕事は、お客様同士で誰かの悪口になると、「自分たちは開かれた場所で話をしている」ということにまず気づいてもらうことを心がけます。「”内”の中だけで話をしていると思っても、悪口を言った相手の人たちもこのお店の中では”内”側」っていうのを気づいてもらいます。

あなたも、カウンターでお客様が「自分の仕事」や「自分の会社」の悪口を言ってるバー、行きたくないですよね。いつ行っても、前向きで新しい情報や、知らない職種の人たちと知り合えて、新しい知見や知り合いが出来るバーが良いですよね。

いつ行ってもそんな心地よい空間、開かれた空間であるように、お客様同士の会話や意識を誘導するのが「コミュニケーションの保険」の大事なところではと思います。

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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WRITER'S PROFILE
Huuuu
Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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