お金と暮らしの基礎知識
2024.05.29
産休・育休中は扶養に入れる?節税できるって本当?【FP監修】
株式会社FP-MYS 代表取締役 工藤 崇
ファイナンシャルプランニング技能検定2級・証券外務員二種。レタプラ開発・提供。YMYL領域の執筆多数。相続・保険・資産運用などの個人相談。IFA事業展開予定。ライフプラン・シニア関連の開発案件受任。
出産手当金などの手当や一時金があるとはいえ、給与が受け取れない産休・育休中は収入が減ってしまうのが一般的です。しかし、年間の収入次第では配偶者の扶養に入ることで配偶者の所得税を抑えられる可能性があります。
この記事では、産休・育休中に夫が利用できる配偶者控除・配偶者特別控除や妻の社会保険料負担をなくす方法を解説します。
産休・育休中は収入が減る
産休や育休の間、会社からは給与を受け取れないのが一般的です。その代わり、産休中は出産手当金、子どもが生まれて育休に入ってからは育児休業給付金・児童手当が健康保険などから給付されますが、これらを合計しても平均的に産休や育休に入る前の給与の5~7割にしかなりません。一方で、出産費用・育児費用はかかるため、家計管理に不安を感じる人もいるでしょう。
そこで考えたいのが、産休・育休中は夫の扶養に入ることです。扶養に入ることで、夫の所得税や住民税を減らしたり、自分の社会保険料負担をなくしたりできる可能性があります。夫の扶養に入るメリットや扶養に入れる条件について、次の項目で解説します。
産休・育休中は夫の扶養に入れる?
産休・育休中の妻は一時的に収入が減るため、夫の扶養に入れる場合があります。扶養には「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2つの意味があるため、それぞれ利用できる条件を見てみましょう。
税法上の扶養で配偶者控除を利用する
税法上の扶養とは、家族の人数や収入に応じて、家計を支えている納税者の所得から一定額を控除できる制度です。産休・育休中の妻の場合は、夫が配偶者控除、もしくは配偶者特別控除が利用できる可能性があります。
夫が配偶者控除・配偶者特別控除を利用できる5つの条件は以下の通りです。
【配偶者控除】
- 12月31日時点で夫婦である
- 夫婦で「生計を一」にしている
- 妻が事業専従者として給与をもらっていない
- 夫の所得が1,000万円以下
- 妻の所得が48万円以下
【配偶者特別控除】
- 12月31日時点で夫婦である
- 夫婦で「生計を一」にしている
- 妻が事業専従者として給与をもらっていない
- 夫の所得が1,000万円以下
- 妻の所得が48万円超133万円以下
このとき、妻の所得に含まれるのは
- 産休・育休前後の給与
- 年金や生命保険、損害保険の満期保険金など
です。育児休業給付金のような、産休・育休中に受け取れる各種の給付金や一時金は所得には含まれません。
税法上の扶養の概念により、配偶者控除・配偶者特別控除が利用できると、夫の所得税や住民税を節税できます。条件を満たす場合は年末調整や確定申告で忘れずに申告しましょう。
産休・育休中の社会保険料は免除
健康保険や厚生年金といった社会保険への加入は義務ですが、産休や育休で収入が減少するなかで毎月の保険料の支払いを負担に感じる人もいるでしょう。産休・育休中の人が社会保険料の納付を止める方法を紹介します。
産休・育休の保険料免除申請を日本年金機構にすることです。自分で社会保険に加入している場合は事前に職場を通じて申請をすることで、産休・育休中の社会保険料が免除される制度があります。
配偶者控除・配偶者特別控除の控除額と収入の関係
産休・育休中の収入次第では、夫が配偶者控除・配偶者特別控除が利用できる可能性があることをお伝えしました。ここでは、妻または夫の収入と控除額の関係について、詳細を解説します。
前述した配偶者控除・配偶者特別控除を利用する5つの条件のうち、そのうち夫と妻の収入の条件に注目してください。
- 夫の所得が1,000万円以下
- 妻の所得48万円超133万円以下
収入および所得は1月1日〜12月31日の間で計算されるため、産休・育休の開始・終了のタイミングによっては、控除が利用できない年もあることをまず押さえておきましょう。また、繰り返しになりますが、出産手当金などの一時金や給付金は収入には含まれません。
5つの条件すべてを満たす場合、夫が利用できる控除額は38万円です。しかし、妻や夫の収入によっては控除額が減ることがあるため、次の項目からひとつひとつ解説します。
妻の年間収入103万円以下
妻の年間の収入合計が103万円以下(所得48万円以下)の場合、配偶者控除として最大38万円を夫の所得から控除できます。ただし、満額の38万円を所得から控除できるのは、配偶者(夫)の年収が給与所得者であれば1,120万円以下(所得900万円以下)の場合です。以下の表のように、夫の収入が増えるほど控除できる金額が減ります。
控除を受ける納税者本人(夫)の合計所得金額 | 控除額 |
900万円以下 | 38万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 |
妻の年間収入103万円超201万円以下
妻の年間の収入合計が103万円超201万円以下の場合、配偶者特別控除として最大38万円を夫の所得から控除できます。ただし、配偶者特別控除では、妻の所得と夫の所得によって、控除できる金額が細かく決められています。詳しくは下の図をご覧ください。
配偶者(妻)の合計所得金額 |
控除を受ける納税者本人(夫)の合計所得金額 |
||
900万円以下 |
900万円超 |
950万円超 1,000万円以下 |
|
48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
妻の年間収入201万円超
配偶者控除・配偶者特別控除ともに対象外です。
配偶者控除・配偶者特別控除の手続き
夫が配偶者控除や配偶者特別控除を申請するには、期限までに所定の手続きが必要です。会社員などの給与所得者であれば年末調整までに必要書類を提出しましょう。年末調整を行わない会社に勤務している場合や自営業などの場合は、確定申告で申告します。
納税者本人(夫)の勤務先で年末調整する
配偶者控除・配偶者特別控除を利用する場合、納税者本人(夫)が「給与所得者の配偶者控除等申告書」を勤務先に提出する必要があります。書類の提出期限は会社によって異なるため、人事部などへ確認しましょう。期限までに提出が間に合えば、年末調整で控除を受けられます。
確定申告する
自営業の場合、または勤務先で年末調整ができる期限までに書類提出が間に合わなかった場合などは、確定申告を行います。確定申告書の所定欄に
- 配偶者控除・配偶者特別控除により控除される額
- 配偶者の合計所得
- 配偶者の氏名や生年月日、マイナンバーなど
を記入しましょう。
なお、年末調整や確定申告で配偶者控除などの申請をしなかったとしても、5年以内であれば還付申告が可能です。還付申告することで支払った税金が戻ってくるため、あとから控除対象だったことに気づいた場合は、すぐに申告しましょう。
まとめ
産休・育休中は給与が受け取れないため、収入が減ってしまう代わりに配偶者の扶養に入れる場合があります。配偶者控除や配偶者特別控除を利用して夫が節税できれば、世帯収入の減少をある程度カバーできるでしょう。
また、事前申請や夫の社会保険上の扶養に入ることで、産休・育休中の社会保険料をなくす方法もあります。この記事を参考に、利用できる制度があれば忘れずに手続きを行うようにしましょう。
WRITER’S PROFILE
リアほMAGAZINE編集局
保険選びのリアルな情報やノウハウをシンプルに分かりやすく解説するリアほ編集局です。