特集

2022.09.21

「挑戦する人の、人生が止まらないために」りんご音楽祭主宰・dj sleeperの保険論

「保険」という言葉に、あなたはどんなイメージを抱いていますか?
人生という冒険を歩んでいく上で、リスクを恐れず立ち向かうこと、そして万が一に備えて「保険」をかけることは重要です。各業界のトップランナーがいかにしてリスクと向き合ってきたのかを語る本企画。彼らの自由な発想が、あなたに合った保険との付き合い方を見つける一助になるかもしれません。

台風や地震、そして大雨など、予測の難しい事態が起きれば、開催すら危ぶまれる「野外音楽フェス」というカルチャー。

ただでさえ高いリスクを抱える音楽フェス文化にとって、感染症の拡大が起きたこの2年間は、大変な苦難の時間だったと容易に想像がつきます。

開催をOKとする基準も常に変化し、「100%安全」を誰も保証することができないなかで、主催者たちは手探りでイベント開催の方法を探ってきました。

生業と文化を守るべく苦闘する野外フェス産業の人々の姿は、まさにリスクに立ち向かう人の姿そのもの。

そんな野外フェスを動かす人々のリスクについて考えていると、話を聞くべき一人の人物が浮かび上がってきました。

長野県・松本市で野外音楽フェス「りんご音楽祭」を主宰するdj sleeperさんは、「保険があって、本当によかった」と語ります。ただ、そう答えた理由はコロナ禍におけるリスクだけに留まりません。

お話を伺って見えてきたのは、「野外フェスを開催すること」に付随するあらゆるリスク。

dj sleeperさんは、野外フェスにまつわるあらゆるリスクと責任を、ほぼ一人で抱えようとしていました。だからこそ、誰よりも「野外フェスのリスク」を考えてきた人物の一人だと言えます。

「保険は、リスクをとって何かをはじめようとする人の"人生が飛ばない"ためのものだと思うんです」と語るsleeperさん。

人を集め、娯楽を提供するフェス開催の裏で、主催者が晒され続けている数多のリスクと、立ち向かうための保険論を伺いました。

話を聞いた人:dj sleeper|古川陽介

1984年、神奈川生まれ。
神奈川生まれ、山梨育ち。大学時代からの活動拠点である長野県松本市でパーティーハウス『瓦レコード』のオーナーを務めながら、dj sleeperとして活動。松本在住歴は20年以上。2009年秋、26歳からりんご音楽祭を始め、今年で14年目。
https://twitter.com/dj_sleeper

保険とは、「人生を飛ばさない」ためのもの

――sleeperさんは、長野県松本市で「りんご音楽祭」を開かれてきましたよね。それも、主催者はsleeperさんひとり、最終的な責任をひとりで背負う形で行われてきたとか。

<りんご音楽祭>
長野県・松本市にある「アルプス公園」にて開催される野外フェス。2009年からスタートし、2019年には過去最大規模の1日5000人(2日間で1万人)の来場者数を記録した。コロナ禍の2020年、2021年においても感染症対策を行いながら、規模を小さくして開催した。

はい。第一回を開催したのが自分が26歳の時だから、「りんご音楽祭」の主催者として、もう14年間活動していることになりますね。

――ひとりでフェスを主宰しよう、と考えたきっかけは?

当時からいろんな音楽フェスやライブイベントに遊びに行っていたんですが、他のフェスを見たときに「あまりにもビジネスライクすぎる」と思ったことがあったんです。「フェスってお祭りなのに、魂の部分が欠けてる」と思ったことすらあって。

「じゃあ、自分で好きなフェスを作ろう」と考えて、りんご音楽祭をはじめました。

でも、いまとなっては当時見たフェスが「なんでビジネスライクな運営だったのか」が十分に理解できます。野外フェスの運営がいかに大きなリスクを負っているのか、自分で主催して知ったから。

大きな野外フェスになると、下手したら何億円の予算が動く。理想だけじゃなく、ビジネスライクな部分がないと運営できないんですよね。

――実際にフェスを運営されて、気づいたリスクがあると。それでも、14年間続けられたんですね。

やっぱり、文化的な側面を残したくて。野外フェスの「お祭りっぽさ」を残しながらやれる規模感を探りながら、イベントを大きくしてきました。

僕は、りんご音楽祭の1日の来場者数が3000人を超えたあたりから、一気にリスクが跳ね上がったように感じたんですよね。

2019年開催・りんご音楽祭の様子(写真提供:りんご音楽祭)

当日は、僕を入れて大体20人くらいの運営スタッフで現場を回しています。

僕1人が密に連絡をとりあうことのできるスタッフの人数が、大体20人くらい。そしてその20人で気を配れる人数が大体3000人だったんだと思います。それを超えると、目の届かないところが出てくる。

ただ、目の届かないところで起きたことに対しても、フェスの主催者は責任を取らないといけないんですよ。

――人を集めれば集めるほど、その人たちが安全にイベントを楽しむためのリスクは高くなっていくんですね。それはそのまま、主催者が背負うリスクにもなると。

そう。何かの理由でフェスが開催できないとなると、チケットの払い戻しやスタッフへの支払い、出演者たちへのギャランティの支払いで、何千万円という損失が出ることになる。

それに、万が一お客さんが怪我をしたり、亡くなられたりしたら、フェスの主催者が賠償することになるんです。

しかも「りんご音楽祭」の場合、主催者は僕一人。金銭的なリスクも含め、イベント会場で起こりうるあらゆるリスクを全部自分一人で背負わないといけないんですよ。

だから、僕にとって保険は「何かあった時、自分の人生を飛ばさないためのもの」なんです。

――フェス開催におけるリスクの深刻さが、少しずつわかってきました。sleeperさんが保険とどう向き合っているのか、もう少し具体的にお伺いしていきたいと思います。

開催し続けて身に染みた、フェスにおけるリスク

反対に僕から質問するんですが、フェスが抱えているリスクにはどんなものがあると思いますか?

――そうですね……すぐに想像できるのは、
 ①フェス自体が開催中止に追い込まれること
 ②お客さんやスタッフ、出演者が怪我をすること でしょうか?

大体そうですね。そして、それって本当に起こるものなんです。

どれだけ全員が「不幸が起きないように」と考えて最大限の準備と工夫をしたとしても、起こってしまう不幸はある。その時に助けてくれるのが、保険だと思います。

たとえば、天候による開催中止なんかはそうですよね。わかりやすい話として、フジロックの第一回が挙げられると思います。

1997年に開催された第一回フジロックでは、台風が直撃してとてもじゃないけれど開催できるような状況ではなかったそうです。結果として、2日目は中止になった。ただ、その様子を当時の保険の担当者が保険会社の担当だと告げずに見にきていて。

フェス中止の原因が「主催者の準備不足」や「想定の甘さ」にあるなら保険はおりないけれど、現場をみた保険の担当者が「天災による事故だ」と判断して。保険がおりた。だから、主催のスマッシュという会社は潰れずに済んだ…という話を、フジロック主催者の方の本で読んだことがあって。

――まさに「保険があったから、主催者の人生が飛ばずに済んだ」例ですね。では、りんご音楽祭では、そうした「開催中止のリスク」に対してどのように備えられているんですか?

そうですね。「興行中止保険」というものがあって、ほとんどの大きなフェスはこうしたものに加入していると思います。

これは、台風などの不慮の天災や、主要な交通インフラの停止、地震などの影響でどうしてもフェスが開催できないと判断された場合に降りる保険です。

取材当日、りんご音楽祭として加入している保険の資料を取材陣に見せながら語ってくれました。

――そうした保険による補償は、具体的にどのくらいの規模になるのでしょうか?

過去最大規模だった2019年を例に出すと……りんご音楽祭では、開催中止になった場合の補償として最大で「6500万円」を受け取るために、2日間の保険代として「200万円」を支払っていますね。

――200万円の支払いで、万が一の時の何千万という損失を担保できるんですね。

そう。開催中止になれば使わない予算も出てくるので、全体で7000〜8000万円の予算で運営するフェスも、大体6500万円の補償が手に入れば、なんとか赤字にはならない計算です。

この補償さえおりれば、たとえフェスが開催できずに収益ゼロになったとしても、アーティストに何割かのギャラを支払うこともできるし、ステージの設営費も、開催までの準備にかかった人件費の支払いもできる。

反対に、保険に入っていなかったら、そうした支払いのために「台風でも決行して、収益をあげるしかない」という判断になると思います。

――そう考えると、数百万円という支払いにはリスクヘッジとして大きな価値がありますね。

でも、超きついですけどね。掛け捨て200万円の保険料の支払いって。

ただ、これは一般的なフェスに比べるとかなり安い方だと思います。フェスによってリスクも異なる以上、保険の支払いの率も変わってくるので。

――フェスによって、保険料が異なる?

3000メートル級の山々が連なる「日本アルプス」のおかげで、長野県は例年の台風被害が少ない。りんご音楽祭の会場「アルプス公園」の天気も、穏やかなことが多いとか(写真提供:りんご音楽祭)

松本市は周囲を山に囲まれた地形のおかげで、台風が来るリスクが低いんです。イベントの開催時期も、台風の来づらい9月下旬に設定してある。

それに、僕は14年間フェスを運営してきて一度も「興行中止保険」を使ったことはなくて。だから信用もあるはず。

保険会社さんの決めることなので詳細はわからないけれど、さまざまな条件からリスクを判断して、それによって保険料の支払い率が決められているんだと思います。

フェスをやりたいなら、実は保険会社さんに「少ないリスクでフェスをやるには、どの時期にどこを会場にしたらいいのか」を聞くのが一番なのかもしれないですね。

――なるほど。保険会社には、これまで興行中止保険を運用してきたデータがあるから。

でも、それはビジネスとしてフェスがやりたい場合。自分は「松本に、フェスがあった方がいい」と思って、文化のためにフェスをやっているので。

会場を変えるなら、その会場で責任が取れる範囲の規模に調整して実行することを考えてきました。

――実際に、コロナ禍の2020年・2021年では規模を縮小して開催されましたよね。

実は、コロナでは保険がおりないんですよ。これが、2020年以降の音楽イベント業界が本当に苦労したことで。感染症や戦争は対象外なんです。

「興行中止保険」の定めるところの「災害」としてコロナが認められなかったので、コロナを原因にフェスを中止しても、保険がおりなかった。だからこそ、自分は保険を使わなくてもギリギリ責任が取れる範囲で開催することにしました。

2021年は、来場者のマスク必須、さらに入場者数を大きく制限して開催した(写真提供:りんご音楽祭)

2019年の開催時には1日5000人の来場者がいたところを、2020年は1日1000人にまで来場者を制限しました。

アーティストにも、「コロナが理由で中止になれば、支払いはできないと思ってほしい」と伝えていて。それでも参加してくれた方々には、感謝しかありません。

――では、2020年は規模を縮小する対応で、なんとか黒字で終えることができた?

実は、当日に大雨が降ってしまって。それによる当日売上の減少と、大雨で発生したリスクへの対応があった。チケットはソールドアウトしていたのに、トータルで500万円の赤字が出ました。

雨が降れば集客が減り、その分の飲食の売上やグッズの売り上げが大幅に減ってしまう。ドリンクの売上は、本来なら主催者側の収入になるので大きな痛手で。さらに雨が降ったことで、想定していなかったリスクが発生したんです。それで、大工さんたちに急遽きていただいて設備を修繕したり、経費が嵩みました。

――いくら備えていても、想定外のリスクが発生する場合もある。

正直、イベント中に起きたことをイベント主催者が保証するということ自体、不思議なことだとは思うんですよ。

でも、フェスの会場で誰のせいにもできないことが起きたときは、主催者が責任をとるしかない。だから、自分がリスクを背負うんです。

イベントのリスクは誰のもの?

――イベントの中止以外にも、たくさんのリスクがあるとわかりました。他にも細かい保険に入られているんですか?

もちろんです。イベント中止以外だと、以下のようなものがあります。

例えばスタッフが設営中に怪我をしても、入院の日額、通院の日額が支払えるようにしてあります。よくある医療保険のようなものですね。

あとはイベント機材、例えば強風などでスピーカーが複数壊れたとしても賠償できるように。あとは、会場設備として元からある公園のトイレが故障しても賠償できるように、とか。

それから、来場者が怪我をした時のための保険にも加入していて。不慮の事故で死亡した時など、最大で10億円までの補償が受けられるように、保険料を支払っています。

――10億円……すごい額の保険ですね。そして、フェスの運営側が引き受けるリスクが本当に多いなと感じます。

僕は、一つの場所に人が集まること自体、そもそもリスクのあることだと思うんですよ。

安全に平和に暮らしていても、人口が数百万人規模の町では毎日何度も事故が起きたりしているわけじゃないですか。人間が安全に生きていくこと自体、貴重で、お金が高くかかることなんだと思います。

フェスにおいては、誰かがリスクをとっているから実現できる。もっと言えば、それだけリスクの高いことをカバーしてくれているのは、保険会社なんですよね。

「フェスがある世の中の方がいい」と思ってくれる保険会社がいるから、「興行中止保険」というものが成り立っているし、フェスは実現できるんですよ。

「保険会社は儲かる」みたいな話って世間一般でされると思うけれど、リスクを背負っている以上、儲けないとできないと思うんですよね。高い売り上げを作っているからこそ、保険加入者に何かあったときに補償することができる。

一緒にリスクを背負ってくれる保険会社がいるから、挑戦できると言えるのかもしれません。

2019年開催時の様子(写真提供:りんご音楽祭)

――sleeperさんにお話を伺うなかで、保険の役割を「自分の人生が飛ばないため」と話されているのが印象的でした。それだけ、フェスのリスクが重いということなんだと。

違う言い方をすれば、保険って「人生を止めない」ためでもあると思っているんです。

本来であれば、人は自分が責任を持てる範囲以上のことはするべきじゃない。でも、人が一人で責任を持てる範囲なんてたかがしれてるじゃないですか。金額にすれば数十万円とか、そのくらい。

それでは世の中は回らないから、自分が抱えられる以上のリスクを抱える機能として「保険」があるんだと思うんですよ

もし、リスクをとった人たちが失敗した時に再起不能なくらい追い込まれてしまったら、リスクを取れなくなるじゃないですか。保険がなかったら、リスクを取る人って全くいなくなると思いますよ。

僕は保険のない社会を生きたことがないからわからないけど、保険という制度がなかったときは、今以上に「自分が起こしてしまった過ち」に向き合い続けないといけない社会だったと思うんです。

金銭面での賠償はもちろん、精神的にも、一生かけて罪を背負いこむしかない。きっと過去を振り返りながら生きざるをえない人が多すぎたんじゃないかと思います。

償いの気持ちを持って生きていく、ということはもちろん大切だけれど、少しでも未来に進むための支えになるのが、保険だったんじゃないかと思うんです。

そういう意味で、保険は「自分の人生を止めない」ためのものだと思いますね。これからもフェスを続けていくために、保険があって本当によかったと思います。

おわりに

2019年開催時の様子(写真提供:りんご音楽祭)

保険は、挑戦する人の人生を止めないためにある。そう語ってくれたdj sleeperさん。フェスを開催することのリスクを聞いていると、その言葉の重みが伝わってきました。

一方で、dj sleeperさんのお話を聞いていると「保険があれば、彼らにギャラを支払える」「保険があれば、彼らの仕事がなくならずに済む」というお話が多く出てきました。野外音楽フェスに関わる人々のことを考え続けたsleeperさんにとって、保険は「共に挑戦する誰かを守る」ための武器でもありました

誰かを支え、守るためにも保険を使うdj sleeperさんは、挑戦する人にリスペクトを送りながら、「フェスのある世の中」をつくるため、今日もリスクに向き合い続けています。

dj sleeperさんが主催する、長野県松本市の野外音楽フェス『りんご音楽祭』が今年も開催予定。チケットも好評発売中です。(※情報は、記事公開時点のものになります)

『りんご音楽祭 2022』

▼開催日程
2022.9.23 (金) 〜 2022.9.25 (日)
※雨天決行・荒天中止 
23日(金) 開場11:00/開演12:00/閉演20:30/閉場21:30
24日(土)25日(日) 開場9:00/開演10:00/閉演20:30/閉場21:30

▼料金(チケット代)
3日間通し券 ¥22,000 9月23日(金・祝)1日券 ¥7,500 24日(土)&25日(日)1日券 ¥8,500
キャンプ券 ¥16,000[3泊4日(9月23~25日宿泊)/1張り(3.5m×3.5m以内)当たり/ローソンチケットのみで販売]
休憩広場券 ¥4,000[1日1張(8㎡以内)当たり/各日発売/りんご音楽祭オンラインショップのみで販売]
※15歳以下、65歳以上は入場券のみ無料(要身分証提示)
※【アフター6特典】アルプス公園で開催の「りんご音楽祭2022」に18時以降ご入場の方には「夜の部」の無料参加券をプレゼント

▼お問い合わせ
りんご音楽祭実行委員会(瓦RECORD) 090-9345-3240

▼公式HP・SNS
https://ringofes.info/
https://twitter.com/ringofes

イベント写真提供:りんご音楽祭
編集・執筆:Huuuu
撮影:五味貴志

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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