特集

2022.12.08

定住でも、放浪でもない。古代人類に学ぶ「半遊動生活」のすすめ|ポスト・ホケニズムの生活考 

文章:ヤマザキOKコンピュータ
挿絵:あけたらしろめ

「保険にさえ入っておけばよい」という盲目的な保険主義(ホケニズム)を脱却し、それぞれの人生に合った「楽しく、しなやかな生活」を考察する本連載。第4回の今回は、新しい時代でも通用する、「ポスト・ホケニストらしい住まい方」について考察していきたい。

古くから絶えない「賃貸vs持ち家」論争。最近はどうやら、賃貸派が優勢な模様。昨今の社会情勢も相まって、賃貸派への追い風は強くなるばかりだ。

一部の不動産業者やメディアはいまだに持ち家を薦める傾向にあるようだが、ポスト・ホケニズムの観点から見ても、持ち家派の理論は支持しにくい。

天災や近隣問題にはじまり、少子高齢化社会における不動産価値の下落、予期せぬ社会情勢の変化、働き方や通勤手段の変容……。これらのリスクを誰もが自分ごととして捉えやすくなった今、あらゆる変化に対応できる賃貸暮らしのメリットについて、改めて説明する必要もないだろう。

とはいえ、我々は何も借り暮らしを望んでいるわけではない。厳密に言えば、我々が欲しているのは気軽に引っ越せる環境だ。天災や悪政やしがらみなど、我々の生活にはさまざまな災厄がやってくる。こんなものにいちいち耐えていたら、胃が穴だらけになってしまう。

環境に適応するのではなく、自分に適した環境へと移り住む。これがポスト・ホケニストの生活術。いざという時にサッと逃げられる姿勢を作り上げたい。

人類は遊動してきた

そもそも人間は本来、「定住」ではなく「遊動」してきた。700万〜800万年あると言われる人類史の中で、定住生活が常態化したのはここ1万年ほどにすぎない。それまで人類は、季節に合わせて年に何度も引っ越しを繰り返しながら生きてきた。

動物全体で見ても、体重50キロ超の大型生物が群れで定住生活を送る例はほとんどない。ゾウもウシもチンパンジーも、みんな遊動しながら生きている。そう考えると、我々が当たり前に送っている定住生活は、かなり異例なものに思えてくる。

定住生活のメリットは、簡潔に言えば「蓄積」だ。道具、食料、住宅、農場、産業設備など、さまざまな豊かさを溜め込み、世代を超えた継承すらも可能になった。

しかし定住生活のデメリットもまた「蓄積」に起因するものが多い。廃棄物や排泄物による汚染、コミュニティー内の嫉妬や不和、天災や戦災への不安など……。望まぬものまで溜め込んでしまう。汚染や格差も継承されて、今や地球存続の危機も見え隠れするほど大きな問題へ進展した。

一方で、遊動生活は物質をほとんど蓄積しない。手に持てるだけの道具を抱え、食料と安全が確保できる土地へと移ろい歩く。ゴミも汚れも、不和も不安も。何もかもを置き去りにして、知恵と脚力で逃げ切ってしまう。

現代人から見れば向こう見ずで無責任な生き方に映るかもしれないが、今我々が直面している環境問題や社会問題のほとんどは、遊動型の社会では起こり得ない。何百万年も続いてきたことからも分かるように、持続可能性については文句のつけようがない。

その代わり、外敵や飢餓への備えには限界があるし、システム上、身体の弱い人が生き残ることは難しい。小柄で病弱な私などは、長生きできるイメージが湧かない。

余剰を生み、弱者を助け、多様性を確保できる定住社会。ストレスが少なく、持続可能性の高い遊動社会。双方の良い部分をうまく取り入れて、よりしなやかでポスト・ホケニズム的な暮らしを考えてみる。

半遊動生活のすすめ

私はここ6年、毎年1度は引っ越している。東京、福岡、沖縄と、3つの都市で7つの部屋を移り住んだ。「遊動」と呼べるほど動き続けているわけではないが、「定住」と呼べるほどには地域に根ざして生きていない。

毎回賃貸契約を結んでいるし、家具や家電も持っているが「どうせまたすぐ引っ越す」と思っているので、安い定期借家を好んで選ぶし、家具も分解して運びやすいものばかり集めている。

SNSやリモートワークの普及によって、私のような暮らし方を選ぶ人もきっと増えていることだろう。当コラムでは、このように移住を繰り返す暮らし方を「半遊動生活」と呼ぶことにする。

私は6年間にわたる半遊動生活の中で、どの街も違った魅力を持っているということを実感した。会社でバリバリ働くのに適した街や、家族で住むのに適した街、心身を癒すのに適した街など、街ごとに必ず個性がある。

例えば、私が現在住んでいる沖縄市の場合、スーパーや飲食店が少し遠い反面、遊び場は多い。生活コストは安く、近所に友人がたくさんいる。とにかく遊びやすい環境だ。実際、最小限のお金で毎日遊んで暮らしている。

こういう暮らしを望んではるばるこの街までやって来たが、来年からはいったん執筆活動に集中したいので、またどこかへ移住しようと思っている。都会で、なおかつ知人が少ない街が良い。生活や遊びにかける時間を圧縮して、机に向かう時間を増やしたい。

このように、己の人生のフェイズに合わせて、最適な場所へとルーラ(ドラクエに出てくる呪文。訪れたことのある街にワープできる)できるのが半遊動生活の醍醐味だ。

半遊動生活は暮らしを最適化するだけではない。長い目で見ると、ポスト・ホケニズム的にも都合が良い。

いつも心に「遊動」の選択肢を

天災や戦災などの有事に、移住できないほど地域に依存してしまうのは、非常に危険だ。なぜなら、これは「集中投資」の状態に近い。

当コラムでは再三にわたって集中投資の危険性を指摘してきた。資産にしろ居住地にしろ、何か一つのものに寄りかかりすぎれば、崩れた際のダメージが大きくなる。時代の変化が加速され、1年後の未来すらも想像できない今だからこそ、なるべく身軽にしておきたい。

私の場合、今のところは文筆業や講演業で生活しているが、この生活がいつまで続くかわからない。目や腰を悪くするかもしれないし、致命的なほど飽きてしまう可能性も考えられる。それまでの間に、私はさまざまな街に住んでおきたい。

一度住んだ街には、土地勘も付くし仲間もできる。こうしてルーラできる街が増えることは、人生のバックアップが増えることに繋がる。天災や戦災だけでなく、人間関係のしがらみでも酷い時には命に関わる。そうなる前に、さっさと引っ越したほうが良い。昔住んでいた街に戻っても良いし、経験を踏まえて新しい街に住んでも良い。

置かれた場所で咲くのではなく、咲ける場所を探しながら、人生のバックアップを増やしていく。半遊動生活は実にポスト・ホケニズム的な暮らし方だ。私は常に「選挙の結果次第では別の自治体に引っ越す」くらいの気持ちで暮らしているが、本来はこれが有権者として健全な形ではないかとも思う。

とはいえ、移住にはコストがかかるし、リスクもある。私のように毎年引っ越す人生はさすがに非合理的すぎる。自分でも分かっている。当然、引っ越した回数は重要ではない。重要なのは、「遊動」の選択肢を捨てないこと。定住生活にどっぷり依存しすぎないように気を付ける。その心持ちである。

道に迷ったときは「古代人類だったらどうするかな?」と考えると良いかもしれない。遊動する自分を具体的にイメージしながら暮らすだけでも、ルーラできる街は増えていくだろう。

次回のコラムでは、実際に移住する際に意識すべきリスクと、その対策について考えたい。

第1回〈「保険要る要らない論争」からの脱出〉
第2回〈貯金さえあれば安心か? 貯金主義の危険性〉
第3回〈脱・一発逆転。「リスク」は世界中に分けて、散らばらせる〉
第5回〈移住は考察から。統計データとハザードマップで暮らしを読み解く〉
第6回〈これから先もどうせ激動。「弾力ある暮らし」でやり過ごしたい〉

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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