特集

2023.01.27

移住は考察から。統計データとハザードマップで暮らしを読み解く|ポスト・ホケニズムの生活考

著:ヤマザキOKコンピュータ
挿絵:あけたらしろめ

「保険にさえ入っておけばよい」という盲目的な保険主義(ホケニズム)を脱却し、それぞれの人生に合った「楽しく、しなやかな生活」を考察する本連載。第5回の今回は、筆者の経験を元に、ポスト・ホケニストらしい移住の準備について考えたい。

2018年、私は東京から福岡に引っ越すことで、11万5000円払っていた家賃を、なんと2万5000円まで圧縮することに成功した。間取りも立地も特に劣らないまま、年間108万円もの削減になる。私の時給を2000円だと仮定すると、540時間の労働に相当する。

作家や投資家としての収入は、どこに住んでもさほど大きく変わらない。家賃が浮いた分、毎日2時間早く仕事を切り上げたり、「報酬が低くてもやってみたい仕事」を増やしたりもできる。

余生が有限である以上、「好ましくない仕事に人生を費やしすぎてしまうこと」は、それ自体がリスクである。ポスト・ホケニストとしては、このような目に見えにくいリスクにも保険を打ち込んでおきたい。

前回の連載でも述べた通り、「移住」は人間関係の不和・天災・人災・退屈・働きすぎなど、さまざまなリスクに対抗し得る。いざというときに移住の選択肢を持っているかいないかで、人生のしなやかさは大きく変わる。必ず確保しておきたい選択肢だ。

しかし、移住自体にもリスクがあり、うまくいくとは限らない。世帯人数が多い場合はコストも嵩み、やり直せる回数にも限りがある。

移住に関するお金のことや人間関係については他のメディアでも散々取り上げられているが、イメージとの齟齬や、災害リスクへの対策についてはあまり取り上げられていないように思える。今回は、東京、福岡、沖縄と、6年間で3都市7住宅を移り住んできた私の経験を元に、ポスト・ホケニズム的な移住とその準備について考えてみたい。

1.統計データから暮らしを想像する

「実際に移住してみたら、思っていた生活と違った」というような齟齬は、事前になるべく減らしておきたい。当然、最終的には現地へと足を運んで視察するわけだが、その前に候補地のデータを集めることで、無駄足も大幅に削減できる。

私のケースでは、まずは自家用車の保有率を見る。「車を持ちたくない」という断固たる意志を持っているからだ。

例えば、私がいま住んでいる沖縄県沖縄市は飲食店やスーパーが徒歩圏内に揃っているため、普段の生活においては車がなくても問題ない。しかし、ある程度長く住んでみるとそうもいかないことがわかる。先日、体調を崩して熱が出た際には、どの病院も徒歩での来院を受け付けてくれず、発熱者はドライブスルーでの対応。どうしようもなく困り果て、自家用車持ちの友人を頼るハメになった。

非常事態下での特殊なケースとはいえ、自家用車の保有が前提となる街では、このようなリスクが潜んでいる。自動車検査登録情報協会の統計によると、2016年度における沖縄市の自家用車保有率は1世帯あたり1.282台。一家に一台を大きく上回っている。

自家用車の保有率が低い街ならば、上のようなトラブルは起こり得ない。私のように自家用車を持たないことにこだわりのある人は、1世帯あたり1台未満の街に住むのが無難だろう。

調べてみると、全国1700以上の自治体の中で、この条件に当てはまる自治体は60前後。ほとんどが関東と関西に分布している。

個人的な感想だが、大都市で公共交通機関が発達しているイメージの強い名古屋市が1世帯あたり0.962台もの自家用車を保有していることと、山と海に囲まれ、坂の多いイメージがある長崎市が0.815台しかないということが意外だった。どちらも直接足を運んだことのある街だが、イメージと実態にはどうやらギャップがあるらしい。このような齟齬を減らすためにも、統計データは役に立つ。

インターネットで検索すれば、自動車保有率の他にも数えきれないほどの統計データが見つかる。市区町村別の有効求人倍率や、平均所得の推移も何となく把握しておくと、今後の暮らしが想像しやすい。移住先でゼロから仕事を探すパターンならば、必ず目を通しておくと良い。

2.ハザードマップからリスクを想像する

次に、見落としてはならないのがハザードマップだ。

ハザードマップとは、特定の自然災害が発生した時に危険だと思われる箇所や、避難場所・避難経路をまとめた地図のこと。国土交通省が運営する「重ねるハザードマップ」では、指定エリアの洪水や高潮、津波、土砂災害のリスクを同時に判別できる他、緊急避難所の位置も確認できる。

試しに大阪市周辺を見てみると、西側は洪水と高潮、東側は土砂災害のリスクが高いことがわかる。中心地で比較的安全性が高いのは、住吉区から大阪城にかけて南北に走るエリア。他は全体的に標高が低く、高潮に警戒が必要とある。

ハザードマップと不動産情報サイトを照らし合わせてみると、極端に家賃が割安に見える物件は、災害リスクが高い場所にあることが多い。実際に見に行くと急斜面や窪地に建っているケースもある。

周知の通り、日本は世界有数の地震多発地帯である。また、歴史的にも科学的にも証明されている通り、大震災は周期的に発生する。

2022年1月、政府の地震調査委員会は、「南海トラフ(静岡県から宮崎県にわたる広範囲)を震源とした大規模な震災が、40年以内に90%の確率で発生する」という報告を出した。

不安を煽るつもりはないが、こればかりは「地震保険に入っておけば安心」という話でもないので、自宅周辺の災害リスクや避難経路は常に把握しておきたい。

特に、これからの移住を検討しているポスト・ホケニストは、候補地のハザードマップは必ず確認するべきである。

しなやかな暮らしのための移住

「地方移住」といえば「悠々自適」とか「田舎でのんびり」というようなイメージに結び付けられやすいが、私はもっと普通で現実的な選択肢として捉えている。「移住できる」という選択肢を持っているかいないかで、生活のしなやかさは大きく変わる。

土地、仕事、人間関係など、何かに依存しきった暮らしは一部のリスクに対して脆い。当連載の前半で、資産運用で「国内に体重をかけすぎない状態」を組み立てようとしたように、移住もまた「地域に体重をかけすぎない状態」を作り出すために有用だ。

本当ならば国外への移住も選べる状態が望ましいが、言語の壁や長期滞在査証(ビザ)の壁も大きい。まずは手近な行動として、自分がいつでも移住できそうな地域をピックアップしておくと良いだろう。家庭や仕事の関係で、どうしても引っ越せない環境にある場合は、火災保険や地震保険で生活を補強しても良い。

ポスト・ホケニズムで目指しているのは、移り変わる時代の中でも楽しくしなやかに生き抜くこと。自身の生活環境をできるだけ深く把握した上で、資産運用、移住、損害保険など、あらゆる選択肢を組み合わせて、丈夫で最適な生活を作り上げたい。

第1回〈「保険要る要らない論争」からの脱出〉
第2回〈貯金さえあれば安心か? 貯金主義の危険性〉
第3回〈脱・一発逆転。「リスク」は世界中に分けて、散らばらせる〉
第4回〈定住でも、放浪でもない。古代人類に学ぶ「半遊動生活」のすすめ〉
第6回〈これから先もどうせ激動。「弾力ある暮らし」でやり過ごしたい〉

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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