保険の基礎知識
2022.11.01
がん保険はいらない?必要ないと言われる理由や判断基準について解説
株式会社FP-MYS 代表取締役 工藤 崇
1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。日本FP協会AFP認定者。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。
「がん保険は本当に必要なの?」
「がん保険に入ると、どんなときに給付金が受け取れるの?」
「入らなくても問題ないかな?」
このように、がん保険の必要性について悩む方が多いのではないでしょうか。
この記事では、がん保険の必要性についてや、加入して受け取れる給付金について詳しく紹介しています。
また、がん保険の加入率や、がん保険がいらないと言われる理由についても紹介しているため、現在加入しようか迷っている方が判断するための材料にできるでしょう。
日本はがん患者が多いと言われている国のひとつです。この機会にがん保険について考え直し、入らなくて良いのか迷っている方はぜひ参考にしてください。そして、自分に合った方法を選択しましょう。
そもそもがんってどんな病気?
がんは、体内でがん細胞が増えることで、体の正常な機能を邪魔するようになって引き起こされる病気です。がん細胞とは、遺伝子に傷がついてしまい、分裂が止まらなくなった細胞のことを言います。
厚生労働省の調査結果によると、日本人の死因別順位第1位ががんとなっていて、亡くなる人のおよそ3.6人に1人は患うとされている病気です。ただし、早期発見できれば9割は治せるとされているため、検診を受けることが呼びかけられています。
出典:結果の概要|厚生労働省
がんの罹患率
日本人の2人に1人ががんにかかる、と聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、実際にはがんにかかる確率が高くなるのは60歳以降で、80歳以降でピークを迎えます。
がんの診断からの生存率
がんと診断されてからの生存率は、性別や患っている箇所、年数によって異なります。
たとえば、日本人の3大がんの1つと言われている胃がんを診断されてから、5年経った人でみた場合、男性は67.5%、女性は64.6%とどちらも6割を超えています。
同じ条件で10年経った人でみた場合は、男性が61.3%、女性が58.2%という結果になっています。
このことから、がんを患ってから5年後の生存率は6割近く、半分以上が治ります。さらに、早期発見なら約9割が治癒すると言われています。がんは、不治の病ではないことがわかるでしょう。
がんの治療にかかる費用の目安
がんの治療にかかる費用はがんの種類やステージ、治療法などによってさまざまです。たとえば、全額自己負担となる先進医療では、陽子線治療のように160万円程度の費用がかかるものもあります。この医療費は公的保障の対象外になることも注意点です。
先進医療に備えた先進医療特約などもありますが、保険料は高くなります。
がんの種類 | 平均入院日数 | 入院費(1入院あたり) |
胃(ステージI) | 19.3日 | 1,105,120円 |
直腸(ステージI) | 18.0日 | 1,352,984円 |
乳房(ステージI) | 12.5日 | 737,730円 |
がん保険で受け取れる主な給付金
がん保険は、がんのみに特化していて、治療にかかる経済的な負担を軽くするための保険です。では、どのような給付金があるのでしょうか。
給付金の主な特徴を知ることで、がん保険が必要なのか判断しやすくなります。がん保険の主な給付金の内容を見ていきましょう。
診断給付金
診断給付金は、がんと診断確定されたときに受け取れる給付金です。一度にまとまったお金を受け取れるのが特徴です。受け取れる金額は保険会社によって異なりますが、一般的には100〜300万円程度でしょう。
入院給付金
入院給付金は、がんで入院したときに受け取れる給付金です。入院日数に応じて支払われますが、1日あたり5,000円〜15,000円が一般的でしょう。
医療保険の入院給付金と異なり、基本的には支払い日数に限度が設けられていません。そのため、入退院を繰り返したり長期入院になったりした場合でも、気にすることなく治療に取り組めるでしょう。
手術給付金
がんの治療を目的として、所定の手術をした場合に受け取れる給付金です。金額は、手術の種類に応じて、入院給付金日額の10倍から40倍などが一般的です。
基本的に支払い回数の限度はありませんが、手術の回数や内容によっては制限を設けている場合があるでしょう。
女性特約
女性特有の乳がんや子宮筋腫などで入院した場合に、上乗せされる特約です。入院給付金だけでなく、手術給付金や乳房再建費用などを給付の対象にしている場合もあります。女性特約は商品によって保障内容が異なるため、加入する前に確認しておきましょう。
先進医療特約
がん治療で先進医療を受けたときに、技術料相当額に対して受け取れる一時金です。先進医療とは、厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養等のことを指します。
先進医療にかかる技術料のうち、自己負担額と同額の給付金を受け取れます。
抗がん剤治療給付金
保険会社所定の抗がん剤の薬物療法を受けた場合に、受け取れる給付金です。月額給付10〜30万円が一般的で、抗がん剤の外来治療が長期化した場合にも備えられます。商品によっては、通算給付金額や支払い限度日数が定められています。
通院給付金
退院後に、がん治療のために通院したときに受け取れる給付金です。1日あたり5,000円〜15,000円が一般的です。通院日数に応じて給付金がもらえるタイプが主流ですが、近年では、通院のみの治療でも給付金がもらえるタイプもあります。
がん保険の加入率
生命保険文化センターの調査資料からがん保険の加入率をみると、がん保険・がん特約の世帯加入率は66.7%(前回 62.8%)です。
加入率が前回よりも上がっていることから、がんへの備えに対する意識が高まってきていることがわかります。
出典:2021(令和3)年度 生命保険に関する 全国実態調査〈速報版〉|生命保険文化センター
なぜがん保険はいらないと言われるのか?
がん保険に加入する人がいる一方で、日本は公的保障が充実しているのでがん保険はいらないという意見もあります。
ここでは、がん保険がいらないと言われる理由を解説していきます。
がんになる確率が高くないため
2人に1人が、一生のうちにがんにかかると言われています。しかし、実際にはがんにかかる確率が高くなるのは60歳以降で、80歳以降でピークを迎えます。
ほとんどのがん保険は掛け捨て型のため、がんにならなければ支払った保険料は無駄になってしまうと考える人もいます。そのため、特にがんにかかる確率が高くない若い世代には、がん保険は不要という声があるのです。
傷病手当金の制度があるため
会社員や公務員には、病気やケガで仕事を長期間休む場合に公的健康保険から傷病手当金が支払われます。
傷病手当金には仕事を休むことによる収入減少を補う意味があり、約1年半にわたって仕事を休む前の平均月収を平均した30分の1に値する金額の、3分の2に相当する金額を受け取れる制度です。
傷病手当金がもらえれば、仕事を休むことになって収入面が不安定になっても、当面の生活費は確保できるため、がん保険はいらないという意見があります。
ただし、国民健康保険に加入する自営業は、傷病手当金の制度はありませんのでもらうことはできません。
高額療養費制度があるため
国民皆保険制度が取られている日本では、医療費の自己負担額は1割〜3割で済みます。それだけでもかなり医療費を抑えられているのですが、がんで手術や入院をした場合は短い期間に数十万円の出費がかかることもあります。
そのようなときに利用できるのが、医療費負担を減らせる高額療養費制度です。高額療養費制度では、1カ月(1日から末日まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になり一定額を超えた場合に、その超えた額が後で払い戻される制度です。
がん保険で備えるほど多くの医療費はかからないため、がん保険はいらないという意見があるのです。
受け取れる金額が多くない場合があるため
がん保険の保障内容は
診断一時金:100万円〜300万円
入院給付金:5,000円〜15,000円
手術一時金:5万円〜100万円
といったものが主流です。
がんの治療にかかる費用はがんの種類やステージ、治療法などによってさまざまです。たとえば、全額自己負担となる先進医療では、陽子線治療のように160万円程度の費用がかかるものもあるため、上記の保障では不足する可能性があるのです。
先進医療に備えた先進医療特約などもありますが、保険料は高くなります。そのため、がん保険に払う保険料と保障額を比較して、元が取れないのでがん保険はいらないと考える人もいます。
がん保険に加入した方が良い人
がん保険が不要とされている7つの根拠を紹介しましたが、1人ひとりの経済的状況や家族の状況は異なるため、なかにはがん保険が必要な人もいます。
ここではがん保険の必要性が高い人を紹介します。
身内にがんの罹患者がいる人
身内にがんの罹患者がいると、自分もなるのではと不安に思う方もいるでしょう。遺伝性腫瘍を認めるのは、5〜10%程度だと言われています。
また、全てのがんが遺伝するのではなく、遺伝しやすいがんとそうではないがんがあるとされています。
そのため、自分のリスクに不安を感じるようであれば、がん保険に加入したほうが良いでしょう。
経済的な不安がある人
がんになると医療費がかかるほかに、仕事を休むことによる収入減少の影響を受けますが、特に以下に当てはまる人はその影響が大きくなります。
・扶養している家族などがいる
・住宅ローンがある
貯金で医療費をまかなうことに不安を感じていたり、自分以外の家族の生活費や住宅ローンなどを払えるだけの資産がなかったりする場合は、がん保険に加入した方が良いでしょう。
先進医療を受けたいと思っている人
がん治療で先進医療を受けたいと思っている場合も、がん保険の加入を検討しましょう。先進医療の技術料は自己負担になります。
先進医療は高額になることも多いため、入っておくことで金銭的な負担を軽減でき、安心して治療に取り組めるでしょう。
がん保険は必要ないと判断しても良い場合の人
すべての人にぴったりと合う保険は存在しません。そのため、不要論の主張のとおりにがん保険が必要ではない人もいます。ここではがん保険に加入する必要性が高くない人を紹介します。
他の医療保険で十分な保障がある人
医療保険のがん特約などでがんに備えている人も、別途がん保険に入る必要性は高くありません。医療保険は本来、幅広い病気やケガの医療費を保障するものですが、がん特約を付帯させることで、がんになった際に手厚い保障が受けられます。
他の保険で十分な備えがされているなら、がん保険は不要でしょう。
かかる費用をまかなえる貯金がある人
医療費を払えるだけの十分な貯金があり、がんの治療費や仕事を休むことによる収入減少に対応できる人は、あえてがん保険に入る必要性はないでしょう。
がんの治療は長引くこともあり、また先進医療などを受ければ自己負担の医療費は高額になります。そのような場合でも対応できるのであれば、保険に入らなくても良いでしょう。
家庭の状況を考えてがん保険が必要かどうか判断しよう
がんによる経済的リスクに備える方法はがん保険だけではありません。そのため、十分な資産がある人のように、がん保険が不要だと言える人もいるのは確かです。
しかし、1人ひとりの状況によっては、がん保険はいざというときの備えとして心強い存在です。がん保険不要論を1つの意見として参考にしながら、自分に合った備え方を選びましょう。
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リアほMAGAZINE編集局
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