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2024.05.08
地震や水害時に避難所にペットは連れていける?必要な準備や知っておくべきポイント【FPコラム】
大地震や水害などで、避難所での生活を余儀なくされてしまった場合に、家族ともいえる大切なペットと一緒に避難所で生活することはできるのでしょうか。ペットを避難所へ連れていく際の、必要な準備やポイントを解説します。
災害時のペットは「同行避難」が原則
大地震に代表される避難時、ペットは「同行避難」が原則です。過去の災害においてはペットが避難所において飼い主と離れ離れになる事例が多数発生しましたが、このような状況のペットを保護することは多大な困難を要します。
具体的には破損した住宅内でペットが負傷したり、衰弱したりするおそれのほか、不妊去勢処置がされていない場合に、繁殖により増加する可能性があります。食事の不足や運動不足により、ペットが媒介となる感染症のリスクもあるでしょう。
そこで環境省は2013(平成25)年に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定し、方針の周知を開始しました。2011年に東日本大震災があり、助けられなかったペットの実情を受けて整備された方針です。
前提は避難所がペットを受け入れられるか
さまざまな人が共同生活を送る避難所にて、ペットを連れていくには「避難所がペットを受け入れられるか」を確認する必要があります。可否を判断する具体的なポイントを見ていきましょう。
〇ほかの避難者に受け入れてもらえるか
避難所には動物アレルギーを有する人や、乳幼児などの子どももいます。実際に多くのペットが一時避難をした東日本大震災では、「避難所で犬が放し飼いされ、寝ている避難者の周りを動き回っていた」 、「ノミが発生した」などのトラブルが多く見られました。
〇ペットはどこで生活するかという視点
日本では災害時の避難所は公民館、小学校や中学校などの公共施設を使用する場合が多いです。この場合、同行避難とは別に、同室避難が可能かどうかが問われます。
同行避難 | ペットと一緒に避難所に赴き生活する |
同室避難 | 飼い主と同じ住居スペース(テントや段ボールなど)で一緒に生活する |
飼い主としては同行避難では不十分で、同室避難を受け入れてもらいたいものです。ただペットアレルギーの方が隣のスペースにいる可能性があるなか、同室避難はなかなか主張できません。
また同室避難の代わりに、たとえば小学校の校庭にペットを生活させるスペースを設けたり、ペットだけの居住スペースを設置したりというニーズが発生します。ただ誤解を恐れずに言えば、明日の状況がわからない避難所での生活に「そこまでの余裕」はなかなか持てません。避難所において集団生活をする方々も、あるいは避難所を確保する市町村などの災害担当部署も人間の生活環境維持で一杯になってしまう、というケースは、東日本大震災後も各地の災害で報告されてきました。
そこで、万が一の災害に備え食料や水を備蓄する準備と同様、ペットの飼い主も備えておくべきとされる指針が整備されてきています。飼い主にとってどのような準備が必要なのでしょうか。
万が一のときの避難所にペットを連れていけるかの事前調査
日々生活をしている地域では、万が一の地震や災害が発生したときに、避難が想定される公共施設が分かっています。まず飼い主はその場所にペットを連れていったときに、どこまでが可能で、どこまでが難しいのかを事前調査しておきましょう。
当然ながら平時に小学生が使用している小学校に赴いて、警備員さんなどに「万が一地震が起こったら犬を連れていこうと思っているが可能か」と尋ねても、明確な回答は返ってこないでしょう。校舎の築年数やインフラの状況(なかなか外部からではわかりませんが)、校庭のスペースなどを自発的に確認することを推奨します。
将来的には行政主導のハザードマップのように、万が一の場合に公共施設が避難所としてこう変わるというシミュレーションサービスなどがあればいいのですが、日本は「実際に有事が起こってから考える」傾向がとても強いため、数年後などの短いスパンでは仕組みの構築は期待できないでしょう。
うちのペットが病気の心配が無いという客観的な証明
もうひとつ必要なのは、ペットを受け入れがたい避難所の方々に、リスクがないことをどのように説明するかの準備です。こちらも具体的な事例を挙げていきましょう。
予防注射の履歴(狂犬病予防注射済票など)
犬の場合、鑑札や狂犬病の予防注射を受けているかという証明を飼い犬に装着する義務があります。また犬に限らず予防注射や不妊治療、去勢手術なども該当します。可能であれば、誰が見ても予防注射がわかるような証明をしておくと、更に効果的です。
ペットが迷子にならないための対策
災害時にはやむを得ずペットを残して避難せざるを得ない状況があります。また同行避難を決めても、混乱のなかでペットとはぐれたり、避難所の慣れない環境からペットが逃げ出してしまったりという可能性もあります。
そのときに効果的な対策となるのが迷子札やマイクロチップです。縁のないところで見つかっても、自宅の表記や電話番号などがあれば、転じて飼い主のいる避難所が特定できたり、連絡がつくことが期待できます。またペットにマイクロチップを装着し、AIPO(動物ID普及推進会議)に登録しておくことで効果を高めることができます。
※参考:AIPO
ペットの避難用品の確保
小学校などが避難場所として開放された際に、ペット用のリードやキャリーバックなどの避難用品を準備しておく必要があります。環境省は少なくとも5日分、できれば7日分の備蓄を必要としています。避難場所での緊急物資でペットの食料が届くことは少ないため、希少なペットを飼育していて特別食を必要としている場合は、更に充実した準備が必要といえるでしょう。
人間もそうですが、避難準備の難しい点は、ここまで準備したから完璧、という到達点が無いことです。また長期間保存の食材や水なども保管期限があり、定期的に入れ替えの必要があります。
東日本大震災では当初、ペット用の救援物資を運ぶ車両が緊急車両と認められず、ガソリン不足も加わり、物資が急に届かなくなる事態が発生しました。大きな震災ごとにノウハウは蓄積されていますが、緊急事態のなか大きな混乱が発生する可能性も高いです。可能な限り、自分たちで出来る準備を進めるようにしましょう。
まとめ
日本は災害大国です。地震や水害など、一瞬にして日常生活が緊急事態に変わる可能性があります。本記事にてお伝えした準備は理想論の延長でもあります。ただ、これからの準備を進めておくことで、避難先でもペットと暮らすことができる可能性が高まることも間違いありません。ならば平時に時間を確保して、必要な準備を進めておくことをお勧めします。万が一の事態をともに生き抜けるように、普段から対策を進めていきましょう。
WRITER’S PROFILE
株式会社FP-MYS 代表取締役 工藤崇
FP-MYS代表。ファイナンシャルプランニング技能検定2級・証券外務員二種。レタプラ開発・提供。YMYL領域の執筆多数。相続・保険・資産運用などの個人相談。IFA事業展開予定。ライフプラン・シニア関連の開発案件受任。(執筆実績はこちら:https://fori.io/takashi-kudo)