著名人・専門家コラム

2024.09.06

国民年金改正案の見送り、その理由は?【住宅FP関根が答える!Vol.114】

みなさん、こんにちは。ファイナンシャルプランナーの関根です。
みなさんは老後の収入源、どのような予定でいますか。働けるまで働く、投資などで不労所得を目指すなど考え方はいろいろあると思いますが、多くの方が当てにしている収入源は年金だと思います。年金は私たちの老後の大切な収入源となります。この年金の財政状況をチェックする年金財政検証が2024年7月3日に行われました。この年金財政検証は、その時点の年金財政の確認、今後の年金制度の問題点、改正点などを話し合う会合で、5年に1度しか行われません。そのため、私も5年に1度の検証結果に毎回注目していたのですが、今回の財政検証では一部大切な改正案が先送りされてしまい大変残念に感じています。

その見送られた内容は国民年金の納付期間を現状の“60歳まで最大40年間”から5年間延長し、 “65歳まで最大45年”にしようという案です。今回の財政検証での大きな改正案とされていたため、先送りされてしまい大変遺憾です。今回はこの改正案の内容と、この改正案がなぜ先送りされたのかを解説させていただきます。

年金財政検証の改正案内容

今回の見送られた改正案の内容を簡単に解説させていただきます。現在の年金制度では、国民年金の納付期間は最大で20歳から60歳までの40年間とされており、40年間納付した場合の満額の年金受給額は年間816,000円となっています。

ただこの20歳から60歳まで国民年金を支払った場合、既に年金納付期限は40年間に達しているため、60歳以降は国民年金を支払うことができません。そのため当然ですが、年金の受給額も増えることはないという制度になっています。

そしてこの国民年金40年間納付という制度には現在、大きな矛盾が生じています。それは60歳以降も会社に勤めており厚生年金を支払っている人たちです。厚生年金を納付するということは、同時に国民年金も支払うことになってしまいます。そのため、60歳時点で満期間である40年間支払いしきっている人は60歳から65歳までの5年間、厚生年金保険料に含まれている国民年金保険料は納めているのにも関わらず、年金は受け取ることができないという矛盾が生じていました。

この部分を解消するため、厚生労働省が今回の財政検証で納付期間を最大40年から45年に延ばした場合、より多くの年金を受け取ることができる、その場合いくらくらい受け取ることができる年金が増えるのかを検証する予定になっていました。

改正案が見送られた理由

私も今までの年金制度の欠点を解消するとても良い案だと思っていたのですが、それが今回見送られてしまいました。それではなぜ見送られることになってしまったのでしょうか。理由はマスコミによるミスリードだと思います。今回の改正案の本質は「40年納付から45年納付へ変更し、受け取ることができる年金がいくら増えるのか」というテーマだったにも関わらず、マスコミが報じたタイトルは「国民年金65歳まで納付検証へ、延長しないと給付3割減試算も」というもので、新聞やニュースサイトだけではなく、テレビニュースなどでも取り上げられていました。このタイトルだけを見ると、あたかも厚生労働省は「年金を65歳まで納付する流れを作ろうとしている、それを決行しないと将来の年金が3割減らされてしまう可能性がある」と感じてしまう報道に、X(旧Twitter)などを中心に炎上していました。 

年金は老後の家計を支える砦です。国民の老後の心配は大変大きく、また現在は急激な物価上昇に年金受給者はより多くの不安を抱えています。そういった中で、受給額が3割も減らされてしまうと報道されると、国民からの不安の声が上がるのは当然といえます。

老後の心配事として多く話題になるのは健康とお金だと思います。自分や家族が介護状態になってしまったら、寝たきりになったらどうしよう、認知症になったらどうしよう、自分が介護状態になったら子どもたちはどう接するのかなど考えることはたくさんあると思います。お金がしっかりとあれば施設に入ることもできますが、十分な資産がない場合には家族に負担をかけてしまうかもしれません。結局お金の心配が増してしまいます。2007年に「消えた年金記録問題」といったことが起こりました。この時もマスコミが年金問題を煽り、時の政権がひっくり返ることになりました。

現在の若い世代をはじめとし、日本の将来に希望がもてない人も多くいる中、以前と比べてお金の心配は増していると思います。そんな心配が多い時代に「国民年金65歳まで納付検証へ、延長しないと給付3割減試算も」と報道されてしまうと心配になる方も多いと思います。今回の納付期間を最大40年間から45年間へ伸ばすという案は年金制度の矛盾を解消する良い案でした。また5年間多く納付することにより、受給できる年金の額も増える予定だったため、マスコミのミスリードにより先送りをされてしまったのではないかと思うと残念でたまりません。みなさんもこういった煽り記事や見出しには、くれぐれもお気を付けください。

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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WRITER’S PROFILE

㈱投資用マンションSOS 代表取締役 関根克直

ファイナンシャルプランニング技能士2級。独立系FPとして18年。ライフプラン作成、保険見直し、住宅ローン提案、投資用不動産計算など、年間300件ほどの面談をおこない幅広いサービスを展開しています。 元ウィンドサーフィンインストラクター、またチャンネル登録10万人YouTuberとしても活躍中。

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