「デートしたい店」でいるために|bar bossa 林伸次の「コミュニケーションの保険論」#4

著:林伸次(bar bossa 店主)

コミュニケーションには、予期せぬリスクが伴います。人と話していて誤解される、意図が伝わらない、相手を不快にさせてしまう……そうしたリスクに備えるための"コミュニケーションの保険"を手に入れておけば、少しでも気楽に人と関わることができるはず。

お店で巻き起こる、さまざまな状況下でのコミュニケーションを目にしてきた渋谷の『bar bossa』店主・林伸次さんが、バーという空間で見聞きした経験値をもとに、「コミュニケーションの保険」にまつわるエッセイを執筆する本連載。バーを舞台とした寓話の数々が、誰かの「コミュニケーションの保険」を考える一助となれば幸いです。

本連載は、今回の第4回をもって最終回となります。最後のコラムでは、変化する世の中でも愛され続けるお店であるための保険について語っていただきました。

※文中に個人名の登場するエピソードについて、ご本人に確認の上で執筆を行っています。そのほかのバー内における描写は、特定の出来事ではない寓話としてお楽しみください。

最近、「おや?」と不思議に感じるカップルが飲食店で増えてきたのですが、こういうおふたりなんです。

例えば、僕が注文をとりにいったり、ワインをお出ししたりしていると、おふたりがずっと敬語で会話をしているんです。でも、仕事関係って雰囲気ではなさそう。あるいは、おひとりの方がスマホを片手にお店に入ってきて、「○○さんという名前で予約が入っていると思うのですが」って仰いまして、僕が「あちらのテーブルですね。もうお待ちですよ」と言うと、おふたりが「はじめまして」って言い合いながら、頭を下げているんです。おわかりでしょうか? マッチングアプリで知り合って、初めてのお店でうちを選んで来てくれているんです。

今、コロナが原因で、「営業で飲み会」みたいなものは激減したようなんです。今まで会社の経費で会食をしていたけど、コロナでそういう会食がなくなっても、そんなに売り上げは減っていないじゃない、じゃあ別に営業で飲み会なんて必要なんてないのかも、という気運があるようで。

でも、飲食店をやっていて、これだけは絶対になくならないという自信があるのが、「デート需要」なんです。どれだけインターネットが発達して、色んなやり取りがスマホだけでやれても、僕たち恋愛の時は、どこかで会って、ごはんを一緒に食べたり、お酒を飲んだりして、色んな会話を楽しみたいんです。

だから今、マッチングアプリという現代ならではの出会い方で知り合いつつも、うちのお店を選んでふたりで来てくれるってすごく嬉しいなあと日々、感じているわけです。

お店をやる上で、「デートで使いやすい」って思っていただけるように、常々意識していることがあります。

①値段が高過ぎないこと
もちろん特別な何かの日だったら、少しくらい高くても仕方ないと思うでしょうが、「このお店、結構雰囲気がいいのに、そんなに高くないんだ。これは使えるかも」って感じていただくのってすごく大きいです。

②メニューや説明がわかりやすいこと
例えばワインリストがフランス語だけとか、ワインの説明が専門的で難しいとかってなると、緊張してしまって、ふたりの楽しい時間にならないんですね。カタカナの表記と、わかりやすい説明って必要です。

③安過ぎないこと
実は安過ぎてしまうと、安さ目当てのお客さまたちがたくさん来店してしまって、わいわいがやがやしたお店になってしまうんです。そうなってくるとデートに向いたお店にはならないので、安過ぎないっていうポイントも意識しています。

④できるだけ色んな層のお客さまが楽しんでいるお店にする
例えば、あちらでは外国人のお客さまがいて、こちらでは女性ふたり組が会社帰りに軽く飲んでいて、という雰囲気でしょうか。というのは、「全員が若いカップルのお店」だと、カップルの人たちがお互いを意識し合って変な空気になりますし、店内が灰色のスーツの男性ばかりで「営業の飲みなんだなあ」と感じるのもまたちょっと変なわけです。出来るだけ、自然な雰囲気で、その中に溶け込むカップルというのが理想的だと考えています。

そんな風に、渋谷のバーのマスターとしては、オーディオミキサーのつまみをいじってバランスを調節するように、「金額はこのくらいにして」とか、「もっとわかりやすいメニューにして」とか工夫して、ちょうどいいお店のバランスを考えているというわけです。

こうして、「安心してデートに使ってもらえるお店」でいられるように、常にお客さまとお店のコミュニケーションの塩梅を意識しています。

ところで、「最近増えたこと」が他にもあります。それは、お店に電話がかかってきて「そちらは誕生日のサービスは何かありますか?」というものなんです。

よくありますよね。例えば、サービスのスタッフがテーブルの前に集まって、ハッピーバースデーの歌を歌ってくれるとか、特別なプレートに誕生日の方のお名前を書いたケーキが出てきたりとか、そういうサービスです。

嬉しいだろうなあというのは僕もわかってはいるんです。たぶん、その瞬間をスマホで撮影して、それをSNSにアップしたりして、っていうのも想像がつきます。周りの友だちにも自慢できるし、お店の宣伝にもなるだろうなっていうのはわかります。でも、実はうちの場合は、そういうサービスは全然用意していないんです。

というのは、お店に丸投げされたサービスで、はたしてふたりのデートの“すごく良い思い出”として残るだろうか?っていう疑問があるんです。どうですか? そういう風に出てきた、どこかのお店のケーキって、ふたりのデートの一番楽しい時間として、記憶に残っていますか?

一方で、何度かこういう連絡を受けたことがあります。

「マスター。今度、彼女の誕生日なんです。それで、僕と彼女がふたりでこのお店に来て、シャンパーニュを飲んで、お誕生日おめでとうを伝えようと思っています。その瞬間に、カウンターの中から花束を出して欲しいんです。その花束は僕がその日、早めにこのお店に持ってきます」

これ、想像していただけますでしょうか。例えば、渋谷の駅の前で彼女と待ち合わせをして、彼が花束を持っていたら、彼女は「ああ、誕生日の花束を持っているんだ」って普通に気づいて、花束をもらって、「うわあ、綺麗。ありがとう」で終わってしまいますよね。

そして、デート中ずっとその花束を持ち歩かなきゃいけないじゃないですか。

でも、僕がカウンターの中から突然、花束を出してくると、もちろん彼女はすごく驚くし、「ええ? 私のためにそこまでやってくれたの? マスターもずっと黙ってて、こんな計画立ててたの?」っていうサプライズになって、ふたりのすごく良い思い出になるんです。

ここではたまたま花束を選びましたが、他にもいろんな方法があると思います。もちろん「指輪が入った箱」を僕がカウンターから出すのでもいいですし、「彼女が1998年生まれなので、1998年のビンテージのワインを用意してもらえますか?」でもいいと思います。そういうのって、その人のアイディアで考えて、それをお店の人と一緒に楽しめるから、すごく思い出に残ると思うんですね。

僕がそんな風にカウンターから花束を出すと、周りのお客さまたちも、「うわあ、素敵!」ってなって、お店中が「おめでとう!」という空気になったこともありました。

お店側としては、そういう風に「上手にデートに使っていただく」ことがすごく嬉しいんです。確実にふたりの思い出として、僕のこのバーが残るわけですし、それでずっとふたりのお付き合いが続いて結婚っていうことになると、結婚式で「あのバーで、花束をもらったのが嬉しかった」なんてことも話されるかもしれません。

あるいは、うちは開店してから25年にもなるので、初期から来店してくれていたご常連のカップルのお子さまが大きくなり始めているんですね。そんなお子さまと来店してくれて、「ええ? ママとパパ、このお店でデートしてたの?」なんて言われるとこちらもすごく嬉しいんです。

お店ってすごく使えますよ。そしてお店側も全然嫌じゃないです。すごく嬉しいので、そんな風に使ってみてくださいね。

●過去の連載記事をこちらからご覧いただけます

#1 初対面の人と、ほど良い距離感で話すには

#2 悪口合戦の場を、静かに落ち着かせるために

#3 お客さまの間違いを正す?

※この記事に記載の情報は公開日時点のものです。

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WRITER'S PROFILE
Huuuu
Huuuuはローカル、インターネット、カルチャーに強い編集の会社です。 わかりやすい言葉や価値観に依存せず「わからない=好奇心」を大切に、コンテンツ制作から場づくりまで、総合的な編集力を武器に全国47都道府県を行脚中。 企業理念は「人生のわからない、を増やす」。

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