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2023.04.12
逓増定期の名義変更プランが問題化、その内容は?【住宅FP関根が答える!Vol.52】
みなさん、こんにちは。ファイナンシャルプランナーの関根です。
最近、逓増定期の名義変更プランが問題化しているのですがどういった内容なのでしょうか。法人保険は節税のために加入するのか、それとも保障のために加入するのでしょうか。本来の加入する目的や名義変更プランについてお話いたします。
今年2月、金融庁は某外資系保険会社に対し、業務改善命令を出しました。その内容とは中小企業の経営者向けの節税ニーズに応えるための保険でした。これら、節税を目的にした保険を経営陣の関与の下、組織的に販売していたため、経営体制の見直しを含むガバナンス態勢の抜本的な強化などを求め、業務改善計画は3月31日までの提出を求めています。この改善命令の内容ですが、法人向けの節税を謳った保険の提案で、ここ数年、金融庁が問題視している低解約返戻金型逓増定期保険と言う商品です。
低解約返戻金型逓増定期保険とは?
逓増定期保険の名義変更プランは、従来、法人と個人の両方で「節税」になると言われ、多くの法人に利用されてきました。これは、解約返戻金の返戻率が最初のうち著しく低く抑えられ、4、5年目あたりにいきなり解約返戻金が立ち上がりピークを迎えるという商品です。この商品自体は昔からある保険なのですが、法人保険で利用されるようになった理由があります。
この低解約返戻金が大きく跳ね上がる前の年、まだぎりぎり解約返戻金が低く抑えられている最後の年に、法人契約から社長個人の契約に名義変更をします。この名義変更時には社長が個人的に解約返戻金分の資金を法人に対して支払わないといけないのですが、解約返戻金の額が低く抑えられているため、保険の評価が低く、それほど大きな出費にはなりません。そして、個人の名義に変更されたあとに、1年分だけ保険料を支払い、その翌年、解約返戻金が一気に増えた瞬間に保険を解約することにより、大きな解約返戻金を手にすることができるということになります。
法人契約から個人契約に切り替えるメリットとデメリット
このやり方は、法人、個人とそれぞれにメリットがあり、法人にとっては名義変更時に大きな損金(損失)を生じさせられますし、個人にとっては名義変更後に個人が保険を解約して解約返戻金を受け取ると、一時所得と扱われ、所得税の負担が軽くなるからです。一時所得金額の計算は、(収入金額-必要経費-50万円)×1/2で、いわゆる「1/2課税」の扱いがされるため、所得税が大幅に抑えられます。法人、個人ともに節税効果があるこのやり方は、一時期とても流行りましたが、問題点も指摘されていきます。
問題は、この名義変更時の保険の資産価値の評価方法です。これまでは、評価額は「解約返戻金相当額」とされてきました。そのため、解約返戻金が低い時期に社長個人が買い取ることにより安く手に入れることができてしまい「実質的な手取りを増やすスキーム」、税逃れだと言われてしまい問題化されていました。
そのため、2019年からなのですが、課税ルールが変更され、それ以降の契約については、名義変更プランの2つのメリットと言えたうちの一つ、個人の側の「実質的な手取りを増やす」というメリットが失われることになりました。名義変更を受けた側での保険契約の評価方法を「経済的利益」の評価で見られるようになっています。ちょっと難しい話になって今いますが、具体的に申し上げると今後は、名義変更を受けた時点での解約返戻金の返戻率が70%未満の場合、払い込んだ保険料のうち資産計上額の合計額を、名義変更の時点での「資産計上額」とすることになりました。これにより個人は、名義変更するために法人に高い額を支払わなければならないことになります。
従来の法人保険に関しては「節税」を前面に謳う商品が非常に多く、長年野放し状態になっていました。私がFPになった18年前は法人保険全盛期で、中小企業の社長さんのところに行っては、この保険に入っていただければ「〇〇万円の税金が浮きます!」と提案書に具体的に金額を記載し、提案を行っていたものです。そういった提案方法が横行していくと、金融庁はそのやり方に気がつきます。それに気がついた金融庁が、そのやり方を慌てて廃止します。そうすると保険会社や保険代理店は、また別の節税方法を考え、それ以前と比べると多少、節税効率は落ちるものの、やはり別の節税のやり方を提案し、それが2~3年使われると、金融庁がまたそのやり方に気がつきそのやり方を禁止するというように、いたちごっこがここ10年以上続いていました。
税金対策のために保険に入るものではない
この流れが断ち切られたのは2019年の2月でした。このタイミングで金融庁が保険を使った節税が一切できないような税制に変更をしたことにより、それ以降、法人保険は本来の保障がメインとなる保険、節税効果のほぼない保険を提案するようになっていきました。本来、保険と言うものは、税金対策のために入るものではありません。社長さんが万が一のことが起こったときに、会社に負担がかからないように、また従業員に万が一のことが起こったときに、従業員の福利厚生のために加入するもので、税金を浮かせるために加入するものではありません。そういった事業保障、福利厚生の部分が強いため、会社の経費として落とせるものとして始まっています。
10年位前までは、保障目的ではなく、節税のためだけに入ると言う保険が多かったため、やっと保険本来の使い方に戻ったような気がします。
WRITER’S PROFILE
㈱投資用マンションSOS 代表取締役 関根克直
ファイナンシャルプランニング技能士2級。独立系FPとして18年。ライフプラン作成、保険見直し、住宅ローン提案、投資用不動産計算など、年間300件ほどの面談をおこない幅広いサービスを展開しています。 元ウィンドサーフィンインストラクター、またチャンネル登録10万人YouTuberとしても活躍中。