保険の基礎知識
2022.03.18
日本の国民皆保険制度とはこんな制度!特徴や課題、今後の見通しまで丸わかり
日本では国民皆保険制度によってすべての人が公的な医療保険に入ることが義務付けられており、そのために全国のどの病院でも比較的安価に高度な医療を受けられます。日本に住んでいるとあまり意識しませんが、実はこのような状況は世界でも珍しく、日本の医療は高い評価を受けている理由の一つです。
しかし、1961年に始まった国民皆保険制度は制度開始から約60年が経ち、課題も見え始めています。国民皆保険制度を維持するため、さまざまな施策が取られていますが、いずれさらに踏み込んだ改革が行われる可能性も否定できません。
この記事では、国民皆保険制度についてその概要や特徴などを紹介し、併せて制度の課題や今後の見通しなども解説します。国民皆保険制度について知っておきたいことをまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
国民皆保険制度とは
国民皆保険とは、すべての国民が何らかの公的な医療保険制度に加入している状態を指し、日本では1961年に始まりました。この項目では日本の国民皆保険制度について、概要と歴史を簡単に解説します。
概要
日本では生まれたときから亡くなるまで、すべての国民が下記のどれかの公的医療保険に入ることが義務付けられています。
健康保険の種類 | 加入できる人 |
健康保険組合 | 大企業などの従業員とその家族 |
全国健康保険協会(協会けんぽ) | 中小企業の従業員とその家族 |
共済組合 | 公務員とその家族 |
国民健康保険 | 自営業者など、上記の健康保険に入っていない人 |
後期高齢者医療制度 | 75歳以上の人 |
会社員や公務員が加入する健康保険組合・全国健康保険協会・共済組合では、加入者と事業者が健康保険料を折半しています。また、加入者に扶養されている配偶者や子供も加入資格があります。
集められた健康保険料は、加入者が医療機関で診察を受けたり、薬局で薬を買ったりするときの医療費や、健康維持・増進のための保健事業、高齢者医療のための拠出金として使われています。
各種の健康保険の主な給付には以下のようなものがあります。
- 医療費の1〜3割負担
- 高額療養費制度
- 出産育児一時金
- 出産手当金
- 傷病手当金
ただし、国民健康保険と後期高齢者医療制度には出産手当金・傷病手当金はありません。
歴史
1961年に国民皆保険制度が始まるまでは、医療費を負担できないために医療機関を受診できず、亡くなる方が特に低所得者層で多く見られ、社会問題化していました。1955年頃、日本には人口の3分の1にあたる3,000万人の無保険者がいたと言われています。
そのような状況を改善するため、1958年に国民健康保険法が制定され、61年に全国の市町村で国民健康保険事業が始まりました。こうして、現在のような誰でも・いつでも・どこでも保健医療が受けられる国民皆保険制度が確立したのです。
日本の国民皆保険制度の特徴
厚生労働省の資料によると、日本の国民皆保険制度の特徴は以下の4つです。
- 国民全員を公的医療保険で保障
- 医療機関を自由に選べるフリーアクセス
- 安い医療費で高度な医療が受けられる
- 健康保険料を基本的な財源としつつ、公費も投入
それぞれの特徴を詳しく解説します。
国民全員を公的医療保険で保障
実は日本のように、国民全員が何らかの公的医療保険で保障されている国は世界でも多くありません。たとえば、アメリカでは通称オバマケアと呼ばれる公的保険制度が2014年に導入されましたが、対象者は高齢者や障害者、低所得者に限られています。その他の人は民間の医療保険に加入しなければいけませんが、高額の保険料が払えないために無保険状態の人が多数いると言われています。
先進国のなかではスウェーデンやイギリスが日本のように国民皆保険制度を持っています。フランスやドイツも公的保険の加入率は高いですが、100%ではありません。
医療機関を自由に選べるフリーアクセス
患者さんが自由に医療機関を選べることをフリーアクセスと呼びます。患者さんが日本全国のどの病院・診療所でも同じ価格で受診できることは日本では当たり前だと思われていますが、実は海外ではそうではない国の方が多いのです。どのような病気であっても最初にあらかじめ登録したかかりつけ医の診察を受け、その紹介がなければ専門医を受診できない「かかりつけ医制度」を取っている国は少なくありません。
「かかりつけ医制度」は医師が患者さんの普段の体調などを把握しやすくなるメリットがある反面、専門医の診察を受けるまでに時間がかかるというデメリットがあります。
一方でフリーアクセスには一部の人気の医療機関に患者さんが集中したり、必要のない受診が増えたりといったデメリットがあります。
安い医療費で高度な医療が受けられる
日本では原則顔を医療費の7割を健康保険が支払い、患者さんは残りの3割を自己負担するだけで医療を受けられます。さらに、75歳以上の高齢者なら自己負担割合は1割まで下がるほか、短期間に多額の医療費がかかったときに利用できる高額療養費制度など、高額な医療費負担を避けられる仕組みが整えられています。
また、日本は世界でも最先端の医療水準を誇る国の一つです。高度な医療を安い費用で受けられるのは国民皆保険制度のおかげです。
健康保険料を基本的な財源としつつ、公費も投入
厚生労働省が公表している「平成30年度 国民医療費の概況」によると、年間の医療費は約42兆円で、そのうち患者負担分は5兆円ほどです。残りのうち21兆円は健康保険加入者や事業者から集められた保険料でまかなわれていますが、不足する16兆円は税金などの公費が投入されています。
国民皆保険制度の課題と今後の見通し
日本が世界に誇る国民皆保険制度ですが、制度開始から60年近い年月が経ち、課題が目立つようになってきました。国民皆保険制度が抱える課題と、今後の展望について解説します。
課題
日本の国民皆保険制度の課題は、収入と支出のバランスが崩れ始めていることです。バランスが崩れた理由としては少子高齢化が大きいと言われています。少子化により、健康保険料を納める働き手が少なくなる一方で、高齢になるほど医療機関を利用する機会が増えるため、医療費給付が増えているのです。
現在、健康保険料による収入で足りない分は税金などの公費を投入することでバランスを取っていますが、このまま支出が収入を上回る状況が続けば、国民皆保険制度の維持が難しくなることが予想されます。
今後の見通し
国民皆保険制度を守るためには、健康保険料収入を増やし、医療費給付などの支出を減らす必要があります。
現在、すでに以下のような施策が実施されています。
- 現役世代の健康保険料引き上げ
- 高齢者の医療費負担引き上げ(現役並の所得がある人は自己負担を1割から2割へ)
- 診療報酬の改定、薬価引き下げなどによる医療費抑制
しかし、これらの対策でも収入・支出のバランスが改善されないようなら、今後は一部の医療行為を保険の適用外としたり、給付水準を引き下げたりといった、さらに踏み込んだ施策が行われる可能性もあります。
まとめ
国民皆保険制度とは、すべての国民が何らかの公的な医療保険に入っている状態を指します。日本で比較的安価に高度な医療をで受けられるのは国民皆保険制度によるところが大きいでしょう。
日本の国民皆保険制度は世界でも高水準な日本の医療を支える根幹の一つですが、制度開始から長い時間が経ち、課題も抱えています。制度を維持するためには、収入と支出のバランスを改善する必要があります。
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リアほMAGAZINE編集局
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